伝統的な「かけつぎ」の業界に20代で参入 匠の技術を未来に残していきたい

――かけつぎの店とのことですが、「かけつぎ」とは何でしょうか?

岡野 衣類の傷、虫食いやたばこの焦げでできた穴を、修復する技術です。例えば、大きく穴が開いたものでも、元に近い状態まで戻せます(上の写真参照)。

――直した跡が全くわかりませんね。いったいどうやっているのでしょうか?

伝統的な「かけつぎ」の業界に20代で参入 匠の技術を未来に残していきたい代表・岡野晃兵氏(写真左)。1990年、愛知県生まれ。信州大学繊維学部卒業後、飼料メーカーを経て、かけつぎ専門店に転職。2年間の修業でかけつぎの技術を学んだ後、2019年4月に修業先の先輩である長谷川雄一氏(写真右)と独立し、紬かけつぎ店を開業。

岡野 修復をするには、主に2種類の方法があります。一つは、別のところから取った生地をはめ込んでなじませる方法。もう一つは、取ってきた生地を糸の状態にほぐし、その糸を一本一本手作業で織り込んでいき、元の状態を再現する方法です。この技術によって、無地だけでなく、ストライプの柄が斜めに入った生地でも修復することができるのです。

 小さな穴なら1時間程度で修復できますが、大きく破れているものだと、修復に数日を要することもあります。修理代は1カ所4000円(税別)からです。

――どんな服が持ち込まれることが多いのですか?

岡野 最も多いのは礼服やスーツですが、着物やダウンジャケットなど多種多様な依頼があります。織りが複雑なニット製品やポリエステルの服、糸が細いシルク素材の服などは、直すのが難しいので、断る店も多いのですが、当店はそうしたものでもお受けしています。修復不可能と思われた大切な服が元の状態に戻ったときほど、喜びは大きいもの。お客さまにはとても感謝されています。

――かけつぎの店は、他にもたくさんあるのでしょうか?

岡野 いいえ、以前はあちこちにあったのですが、今は激減してしまいました。一宮市には当店しかありません。世はファストファッション全盛なので、お金をかけてまで直そう、というニーズが減っています。その上、職人が高齢化で次々と引退しています。根気がいる仕事なので、職人のなり手も少なく、業界全体が先細りなのです。その中で当店は、私が30歳、共同経営者である長谷川雄一が40歳と、若手が運営する珍しい存在だと思います。