中国人インフルエンサーによる「日本の美談でっち上げ」が横行する理由Photo:PIXTA

英国の「変異種」、中国から特に注目される理由

 間もなく2021年になるというのに、我々はコロナ禍の脅威に翻弄されている。感染力が従来のものより高いとみられる変異種の新型コロナウイルスが英国で急速に広がっているという。2020年12月19日、首都ロンドンなどで3度目のロックダウンが公表されるやいなや、市民の大脱出が起きた。その騒ぎは世界的な注目を浴び、欧州諸国の対応策も素早かった。

 ロンドンを脱出しなかった市民もたいへんだ。スーパーマーケットの食品コーナーはもちろん、他の商品棚も空っぽ状態だ。商品がまだあるスーパーの外は人々が長蛇の列を作って入店の順番を待っている。

 英国の情報は、もちろん、どの国の人間にとっても必要なものだが、中国での需要はさらに高い。英国留学に子供を出した家庭がたくさんあるからだ。英国高等教育統計機構(HESA)の統計によると、2019年に英国に留学した中国本土出身の学生は前年度より13%増の12万385人で、その規模は他の国をはるかに上回り、英国大学の非EU出身学生総数の3分の1を占め、過去最高を記録した。したがって、3度目のロックダウンに突入した英国の情勢に、数え切れないほどの中国人家庭が大きな関心を払っている。

ロンドン市民の脱出動画がTikTokでバズったが…

 SNS時代のいま、人々の情報収集の主要手段は、新聞やテレビといった在来のメディアではなく、むしろインターネットメディアに依存している。ネットメディアは中国では、ニューメディアを意味する「新媒体」と呼ばれる。そのニューメディアの中でも、微博(ミニブログ)、WeChat(中国語名は「微信」)、TikTok (中国語名は「抖音」)などに代表されるSNS情報に依存する傾向がある。

 それゆえ、今回のロンドン市民の脱出劇を記録したといわれる動画がすぐにTikTokに出てきた。動画のタイトルは「新型コロナウイルスが英国で変異種になり、市民は夜通しでロンドンを脱出」。あっという間に、この動画は多くの「中国語自媒体」(SNSなどを使って情報を発信するが、インフルエンサーほどの影響力はないユーザーを指す)にシェアされ、400万人から「いいね」を得た。しかし、やがてその動画で使用されている最も緊迫感をもつ映像は、10月18日と11月29日のもの(つまり以前のロックダウン時の模様)だということがばれて、有識者の批判を受けた。