「リアルで見て、アマゾンで買う」に対抗するしくみを発明した、小売のユニコーン企業とは?photo: ダイヤモンド・チェーンストア

米国、中国、インド、欧州、東南アジア、そして日本――世界を代表する50社超の新興企業と、その革新を支える「技術」「ビジネスモデル」を網羅した決定版として話題の『スタートアップとテクノロジーの世界地図』
今回は同書より、「顧客とのエンゲージメントに課金」という新しいビジネスモデルを生み出し、日本進出も果たした注目のユニコーン企業を紹介する。

小売店を蝕む「ショールーミング」

 小売業は、利益を上乗せした商品を販売して儲けるというビジネスモデルが一般的だ。しかしAmazonをはじめとするECの台頭により「商品を店舗でチェックして、購入はECでおこなう」いわゆるショールーミングが増加。店舗運営や在庫のコストを抱えるリアル店舗は、ECに価格で負けて客を奪われ、じり貧の状況に陥りつつある。アメリカではこの数年でセレクトショップのバーニーズや玩具小売大手のトイザらス、家電販売大手のベストバイなど、大手・老舗の小売業が次々と破綻した。

 2015年に創業したb8ta(ベータ)はこのような既存の小売業のビジネスモデルを一変させるかもしれない。彼らが利益の元とするのは「顧客と商品のエンゲージメントへの課金」だ。

 アメリカ国内に実店舗を構えるb8ta。取り扱い商品の中心は最新のガジェット類だ。一見するとタイプライターに見えるコンピュータ用のキーボード、電動一輪車、カラフルな教育用ロボット、替えブラシが定期的に届く歯ブラシ…、b8taの店内には通常の家電店では取り扱われていないような興味深い商品の数々が整然と陳列されている。商品は店頭でもECでも購入可能。特徴的なのは、商品のそばに設置されているカメラが、店舗を訪れる客の動きを記録・分析し続けているという点だ。

 出品者は、固定の出品費用を毎月b8taに支払う。最低の販売期間は6ヵ月。b8taに商品を出品することによって出品者は商品についてリサーチをおこない、エンゲージメント(強い関係性)を獲得し、ブランディングをすることができる。その仕組みはこうだ。

 まずリサーチであるが、出品者は出品期間中何人の客がその商品に興味を持って立ち止まったのか、手に取ったのか、何個が実際に販売されたのかという定量的なデータをダッシュボードから得ることができる。出品者はこのデータを生かして、商品のブラッシュアップや、次回の商品開発につなげる。基本的に接客による売り込みはおこなわないが、店員がお客にヒヤリングをおこなうことはあり、これらの定性的な情報もメーカーにフィードバックされる。

 次にエンゲージメントだが、b8taへの出品自体が、エンゲージメントの獲得といえる。これはオンラインのバナー広告への出稿に似ている。オンラインのバナー広告は、そこから商品を直接購入してもらえるとは限らなくても、お客が広告を目にすることで、めぐりめぐっていつかどこかのチャネルでの購入につなげるためのものだ。そのためにメーカーは広告に課金してエンゲージメントを獲得するのである。さらにb8taは、カメラの技術とAIを活用することで、1人の顧客がその商品を認知したり、立ち止まったりする際の費用対効果が明確だ。これは出品者が出品料を支払う後押しになるだろう。

「リアルで見て、アマゾンで買う」に対抗するしくみを発明した、小売のユニコーン企業とは?

 出品者にとってはb8taで販売される商品に選定されれば、その商品が最先端の人気商品であるというブランディングにもなる。これは、ショールームやセレクトショップの典型的な手法だ。

 お客にとって、商品を購入する場所は、店舗であろうがECだろうが大差はない。一方、既存の小売業は、自分が運営するリアル店舗で客が商品に触れたにもかかわらず、最終的には他社のECで購入されることを嘆くしかなかった。b8taは、商品と顧客とのエンゲージメントに課金するというリアル店舗の新しい儲けのしくみを発明したと言える。

トイザらス復活の鍵も握る?

 現在b8taはアメリカ国内を中心に22店舗を展開。デパートやショッピングセンターの一角にテナントとしての入居も可能で、受け入れるディベロッパーにとっては集客につながるというメリットもある。現在アメリカの大手ホームセンターLowe’sの中にショップインショップとして「Lowe’s Smart Home Store Showroom Powered by b8ta」も展開している。

 b8taは、Vibhu Norby、William Mintun、 Phillip Raub(ヴィブ・ノービー、ウィリアム・ミンタン、フィリップ・ラウブ)によって2015年に創業された。ファウンダーのPhillip Raubは、Wii 最盛期の任天堂でリテールマーケティングディレクターとして、ウォルマート、ターゲット、ベストバイ、Amazonなどのパートナーとともに、任天堂のブランドを拡大する役割を果たした。さらに火災報知器・サーモスタットのNest(のちにGoogleに買収された)でグローバルマーケティングチームを統率するという経歴を持つ。最新のガジェットを、リテールでどう販売するかに長けた人物と推測される。

 実はこのb8ta、2017年9月に破綻したアメリカの大手玩具小売のトイザらス復活の鍵を握るともいわれている。玩具の購入チャネルが実店舗からECへシフトしたことがトイザらス破綻の原因の1つと言われているが、トイザらスの再生を試みるVCがb8taのテクノロジーとビジネスモデルを同社に適用しようとしているのだ。

 b8taの時価総額は推定200億円。最も調達額が大きいのはインドと関連性の強いKhosla Venturesで、アメリカの老舗百貨店メイシーズも出資している。時価総額ではまだまだ小粒な企業といえるが、このビジネスモデルの独自性は評価できる。トイザらスの再生が成功すれば加速度的な成長もありうるだろう。

日本でも実店舗がオープン

 2020年1月にはアメリカの投資ファンドと合弁でb8ta Japan(ベータ・ジャパン)を設立。丸井グループ、三菱地所、カインズが出資している。2020年夏には日本でも2店舗(新宿・有楽町)をオープンした。

 近い将来、少子化が進む日本において小売業はより厳しい局面に立たされるはずだ。危機に瀕したリアル店舗の再生手法としてb8taのビジネスモデルが導入されるような事例もありうるかもしれない。また、本ビジネスモデルの適用範囲はガジェットにとどまらないだろう。FORUMというアパレルの業態をロサンゼルスにオープン済みで、日本のb8taでは一部食品も取り扱う。店頭で試着・試食することが重要な商材との親和性は非常に高いと考える。