『子育てベスト100』著者の加藤紀子さんは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』について、「当事者向けに書かれた本だが、実は子育てにも使える」「親が感じる“子どものことをわかりたい”“でも、どうしたらいいかわからない”という悩みに、具体的でわかりやすいヒントを教えてくれる良書」と、この本を絶賛しています。
今回、この二人の対談が実現。「子ども」「親」それぞれの立場から、発達障害と子育てについて語ってもらいました。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/柳原美咲)
第1回:発達障害の僕から「自分の子は発達障害?」と悩む親に必ず伝えたい2つのこと
第2回:発達障害の僕が「親にして欲しかったこと」「してほしくなかったこと」

発達障害の僕から「学校に行けない子どもたち」に伝えたいたった一つのこと

学校には行かなくていい。でも「好きなことだけ」は危うい

加藤紀子さん(以下、加藤) 最近は、教育業界に取材をしていても「学校に行けない子は、別に行かなくてもいい」という風潮も強まっていると感じるんですが、そのあたりについて借金玉さんはどう感じていますか?

借金玉 学校へ行くこと自体が辛い子はいるので、無理に学校へ行かなければいけないとは思っていません。ただ、勉強をして、学力をつけるなど、学校へ行くことで身につけるはずだったものをどうやって埋め合わせするかはとても大事だと思っています。

「やりたいことだけをやって一芸に秀でていく」というのも一つの方法なんですけど、それってやっぱりリスクが高いですから。

加藤 トップアスリートになるって言っても、すごく狭き門ですし、海外に行かせるって言っても、すごくお金がかかりますしね。

「やりたいこと」をやらせるのはもちろん大事ですけど、そればっかりにならないようなバランスは大事ですね。学校へ行かなかったとしても、忘れてはいけない部分ですね。

借金玉 本当にそうです。「学校の勉強が社会でどれだけ役立つのか」って議論はいつもありますけど、そもそも教育って「何が役になって、何が役に立たない」ということより「幕の内弁当」であることが重要だと思うんですよ。

学力っていうのは、すごく応用の効く能力だし、いろんなことをバランスよく学べるという意味では、学校ってすごく高機能な場所なんです。だから、学校へ行かないことで失ったその機会を、どう埋め合わせするかは大事なポイントですね。

学校と勉強がセットになっていなければ一番いいんですけど、そこがなかなか難しいところですよね。

加藤 最近は、N高のようなインターネットでも学べる形が出てきたのは、すごくいい傾向ですね。学校に行きづらい子でも学びを止めずに済む。この点は、いい世の中になってはきていますね。発達障害とインターネットでの学びっていうのも、すごく親和性が高いと思います。

借金玉 すごくいい傾向ですね。学校の人間関係で悩む子も多いですから、そういう煩わしさから解放される意味では、インターネットでの授業は最高だと思います。

最新の情報は、僕ももっとアップデートしないといけないですね。僕らの時代は、独学するとか、本を読むとか、そういうことくらいしかなかったですから。

加藤 大学へ行きたいなら、大検を目指すしかないって状況でしたもんね。

発達障害の僕から「学校に行けない子どもたち」に伝えたいたった一つのこと借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』