鬼ヶ島から財宝を持ち帰った桃太郎を待っていたのは、毎年の確定申告でした。果たしてこの財宝はどう申告したらいいのか、鬼退治に使った「きびだんご」は経費として認められるのか――。
そんな疑問にこたえる新著『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』では、知らないと損をする、でも説明されてもわかりにくい。そんな税金の世界を、誰もが知ってる昔ばなしでシミュレーション。ストーリー仕立てで楽しみながら、税金の知識が身につくと早速評判になっています。
こちらの連載では、本文の中からご紹介してきます。「鶴の恩返し」の4回目は、著者の高橋税理士の解説になります。(イラスト・佐々木一澄)

「鶴の恩返し」(4)<br />ユーチューバーの「洋服代」は経費になる?

*「鶴の恩返し」の3回目はこちらになります。

それは経費? 経費じゃない? 大切なのは「説明できる」こと

 ランチを食べたりお酒を飲んだりしたあと、レジで「領収書ください」と言っている人を見かけたことはありませんか。特に会社経営者や個人で商売をされている方は、領収書をたくさん集めていますね。

 そんなに領収書ばっかりもらってどうするんだろう、切手みたいにコレクションしてるのかな? と思われるかもしれませんが、別に皆さん領収書が大好きで集めているわけではありません。その先の「経費」が大好きなんです。

 領収書はかかった経費を証明するための書類。領収書をたくさん集めれば、経費がたくさんかかったことが証明できます。経費がたくさんあれば、所得税の負担を減らすことができるんです。さらに住民税や国民健康保険料をも減らす効果があります。いうなれば領収書は、税金の「キャッシュバック」のためにあるもの。一生懸命集める気持ちもわかりますね。

 ではなぜ、経費がたくさんあると所得税の負担が減るのでしょうか。

 例としてアリとキリギリスに登場してもらいましょう。2人とも商売をしていて、どちらも年間の売上は200万円とします。仲良しですね。

 ただ、性格は真逆です。几帳面なアリは領収書をきっちり保管し、めんどくさがりのキリギリスは領収書を片っ端から捨てています。確定申告の時期がくると、アリは領収書を集計して100万円の経費を計上し、キリギリスは領収書がないので経費ゼロで申告しました。

 仮に、2人の税率がともに20%だとすると、それぞれの税額は……

 アリ (200万円-100万円)×20%=20万円

 キリギリス 200万円×20%=40万円

 と、なります。アリの税金のほうが少ないですね。計算式をよく見ていただくとわかりますが、アリは経費の額(100万円)に税率(20%)をかけた分(100万円×20%=20万円)だけ、税金が減っているんです。キリギリスはめんどくさがりのせいで、倍の税金を払うことになってしまいました。

 このように、領収書があればあるほど税金を減らすことができます。税金を払うのが好きで好きで仕方がない人以外は、しっかり領収書を保存して経費をもれなく計上する、まさに「アリ」のごとき努力が必要になるわけです。

「本当に商売に必要なお金」が経費になる

 しかし、領収書があればなんでもかんでも経費として認めてもらえるわけでもありません。

 私たち税理士のところには、お客さんからたくさんの領収書が届きます。その中には、ペットフードやベビー用品などの「これ、どう考えても生活費ですよね……」というものや、ラブホテルの宿泊費といった「こういう領収書は人に見せないほうが……」と思うようなものまで、色々なものが混じっています。

 いったいどこまでが必要経費といえるのか? 法律では経費を「本当に商売に必要なもの」に限定するため、以下のように定めています。

(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額

(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額

(1)は売上との直接的な関係があるもの(『鶴の恩返し』でいえば糸)、(2)は売上に直結しないが商売上は必要なもの(『鶴の恩返し』でいえば家賃)を指します。裏を返すと、こういったもの以外は経費に認められません。『鶴の恩返し』では、売上にも商売にも関係ない食費は経費に認められませんでしたよね。

 また、『鶴の恩返し』での家賃のように、「生活のための支払い」と「商売のための支払い」が混ざっている場合は、「この部分は商売で使っているので、全体の○割が経費です」という計算が必要です。ただ、なんの根拠もなく「自分は毎日全力で商売に向き合っているので100%経費です」などと説明しても税務署に却下されてしまうので、計算の根拠はちゃんと説明できるようにしましょう。

【計算根拠の例】
家賃、自宅の減価償却費など→事業として使用している面積の割合(平米数、部屋数など)

電気代、水道代、ガス代など→事業として使用している面積の割合、業務時間と在宅時間の割合など

インターネット使用料、携帯電話代など→業務連絡とプライベートの割合、業務時間と在宅時間の割合など

車検費用、ガソリン代、車の減価償却費など→使用日数や走行距離などの割合など

ユーチューバーの「洋服代」は経費になる?

 さて、最近私たち税理士の頭を悩ませているのがユーチューバー、インフルエンサーなどのインターネットを使った新しい商売。前例がないんですよね……。

 その中でもよく質問を受けるのが「洋服代」です。「使っている姿が映像や写真に残っているし、経費にできますよね!?」と前のめりに聞かれることもしばしば。それなら経費にできるかな……と思いつつ、先ほどの家賃のように生活(普段着)と商売(衣装)が混ざることもあるし……と、なかなか悩ましい問題です。とりあえず、私のなかではこんな感じで基準を設けています。

◎工事現場などの作業着、ホステスさんのドレスその場でしか着ないので経費

◎ユーチューバーやインフルエンサーの洋服(衣装)原則としては経費でよい。しかし全部を経費にできるかは未知数。生活/商売の比率を決めて経費にするのがオススメ

◎普段着→生活費なので経費にはならない

 これは洋服に限った話ではなく、映像や写真に写り込むさまざまなもの(小道具など)にも共通します。相談を受けた際は「撮影後も個人的に使うかどうか」などを考えて割り振ったりはしますが、毎度頭を悩ませる部分ではありますね。

 確定申告では、そんな悩ましい部分にも何らかの基準を作り、経費かそれ以外かを判断しなければなりません。とにかく大事なのは、経費であることをきちんと説明できるかどうか。税理士や税務署の方をちゃんと納得させられるような「経費の基準」を、しっかり考えておきましょう。

(次回へ続く)