国際的に有力な格付け会社であるムーディーズ・インベスターズ・サービス社が5月18日付けで日本国債の格付けを1段階引き上げた。筆者は翌日の新聞記事で知ったが、率直なところ驚いた。喩えていうと、冬になってから、「お中元」が届いたような気分だ。心遣いは嬉しいとしても、本当にお中元として受け取っていいのか。ちなみに、財政赤字の話が出るたびに引き合いに出されるイタリアの国債の格付け(自国通貨建て)とこれで並んだことになる。また、日本国債の格上げは昨年6月に1段階行われており、11ヶ月ぶりだ。

 同社のリリースを読むと、Aa3だった自国通貨建ての債務に対する格付けをAa2に引き上げ、Aaaだった(日本国政府の)外貨建ての債務への格付けをAa2に引き下げ、両者を統一するとのことだ。また、日本政府の信用格付けがAa2に統一されることにともなって、政府系機関債(たとえば財投機関債)や地方政府の格付けでAaaが付与されているものにつき、今後見直しが行われるようだ。こう書くと、さほどの有り難みが伝わってこないかも知れないが、日本政府の債務は主に円建てだから、企業や個人の多くが投資している国債の格付けが上がったことに変わりはない。

 なお、筆者の理解では、格付け会社は「おみくじを販売する神社」のようにイメージと評判に対してセンシティブなビジネス・モデルを持っている。本件について具体的な関心を持たれる向きは、ムーディーズ・インベスターズ・サービス社のウェブ・サイトで同社の見解を直接読んで欲しい。国債の格付け及びその手法など、主な発表についてはユーザー登録することで誰でも無料で読めるようになっている。

 さて、このニュースを報じる「日本経済新聞」(19日、朝刊)も、日本国債の「格上げ」として、意外感を滲ませながら記事を書いている。「日本政府は金融危機への対応策などで国債増発を迫られており、財政状況が悪化する傾向にある」と指摘し、にもかかわらず格上げした理由をムーディーズに取材している(記事になっているということは、たぶん同社に取材したのだろう)。

 日経の記事によると、ムーディーズが挙げた理由は以下の三つだ。

(1)家計の貯蓄率が高く国債の買い手が多い。
(2)金融危機による金融機関の損失が欧米に比べ小さく、財政への影響が限られる。
(3)2007-08年の大量償還を順調に乗り越えるなど、国債管理政策が適切に実行されている。

 日経の記事はこれらの理由にツッコミをいれていないが、前提となる状況の「変化」を考えると、ムーディーズが挙げた理由は説得力が乏しい。