健康情報を活用するには自分の言葉でティーチバックPhoto:PIXTA

 米フロリダ大学の報告では、糖尿病患者の療養指導に「ティーチバック(TB)」というヘルスリテラシー力を上げる手法を採用することで合併症のリスクが3割減り、医療費も削減できたという。

 TBは直訳すると「教え返す」という意味で、主治医が説明した内容を、患者が自分の言葉で主治医に説明し返す方法を指す。

 専門用語をオウム返しにするのではなく、あくまで「自分の言葉」という点がポイント。うまく置き換えられない場合は、医療者が別の言い方で説明を繰り返し、さらに患者が教え返すという工程を「腑に落ちる」まで繰り返す。

 前述の研究では、18歳以上の1型/2型糖尿病患者2901人(年齢中央値60歳、女性52.6%)について、TB群805人、非TB群2096人を比較した結果、追跡1年後の合併症リスクがTB群で3割減少。さらに冠動脈疾患などの重大な合併症がもとで入院するリスクは、ほぼ半減したことが示された。

 合併症リスクの低下に伴い治療費も下がり、非TB群の医療費(投薬+入院費など)が1年間で3639ドル/人(円換算37万5000円)増加したのに対し、TB群は1920ドル(同19万7000円)の増加にとどまった。研究者は「TBで自己管理スキルが向上したため」としている。

 実際、TBの最大のメリットは、自分の言葉と認知を通して、病のリスクを自覚できる点だ。

 人間は面倒なもので、理由や目的を理解せずに正しい行動はとれない。感染予防のマスク一つにしても「なぜ」がなければパフォーマンスに終わる。ノーマスクのフェイスガードが典型例だろう。

 5分間診療が当たり前の日本でTBは難しいが、日頃から家族や第三者に「自分の言葉」で持病や健康リスクを説明する練習をしておこう。結局、正しい理解が健康と人生を守るのだから。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)