発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。

発達障害の僕が発見した「1日が仕事と睡眠で埋まってしまっている人」が忘れているたった一つの事実

事実:だらだらネットをしている時間は休み時間ではない

 僕らのもとにコロナ禍がやってきてしまいました。多くの仕事が跡形もなく吹き飛び、周囲は大混乱の中にいます。商売が立ち行かなくなった友人もいますし、僕自身も不動産業、文筆業ともに先行きは全く見えません。もはや、状況に対して適応する以外の選択肢は残っていないといっていいでしょう。

 本書では、否応なく自宅で仕事をすることになったみなさんに、対応方法をお伝えています。

 この技術は「仕事」だけではなく社会人にとっての自宅学習であったり、あるいはお子さんの学習環境構築などにも応用できるものだと僕は思います。もちろん、僕のようなフリーで仕事をする人間にとっても必須のスキルでしょう。

 僕が「自宅で仕事をする」状況に本格的に向き合ったのは、前作の本を書き上げたときでした。その頃は週に5回出社するごく普通のサラリーマンでしたので、当然仕事が終わって自宅に帰りつくなり本を書くためパソコンにかじりつくことになります。すると、気がつけば日常生活のすべてが仕事に塗りつぶされてしまい、日に日に身体が壊れていくという事態が起きてきました。

 当時僕は会社が終わると自宅に直帰し、パソコンに向かって力尽きるまで書いたら布団に倒れこむ生活をくりかえしていました。今思うと、生活が「睡眠」と「仕事」しかなくなっていたのです。もちろん、僕はそこまで勤勉な人間ではないのでパソコンに向かっている「仕事の時間」とはいえ100%働いているわけではありません。音楽を聴いたりインターネットを眺めたりはしています。しかし、今思えばその時間は休息として極めて質が悪かった

 結果、本を書き上げた後は手首の腱鞘炎にひどい腰痛、さらには猛烈な足のむくみに背中の痛みと体調不良のフルコースみたいな状態に陥り、回復には1年以上を要しました。

仕事が生活を侵食する恐怖

 この大失敗から僕が学んだこと、それは「仕事は日常生活の上に成り立っている」というごくあたりまえの事実でした。在宅ワークの最も恐ろしいところは、僕らの生活を仕事がどんどん侵食して、奪っていくことです。最近僕は自宅で物書きの仕事をすることが増え、そのことをさらに強く実感しています。

 だから僕がお伝えするハックも「最高の生産性を引き出す働き方」のようなテーマではありません。代わりに、
・どうすれば仕事と日常生活を分けられるか
・どうすれば働きすぎないか
・どうすればラクができるか
を追求しています。

 もしかしたら「この社会情勢の中で何を呑気な」と思われてしまうかもしれないな、と思います。

 しかし、あえて僕はいいたい。身体と心に鞭を打って最高の生産性を出す「意識の高さ」ではなく、限られた現状の中で、なんとかよき日常をつくり出すことを最優先する「意識の低さ」を大切にするべきだと。人生はいつだってサバイバルです。自分を取り巻く環境をよくしていくことは、絶え間なく続けるべき前進です。

 どんな状況にあっても、あなたの日常は幸福なものであるべきなのです。あなたは日常の中から幸福を受け取る権利があるのです。状況が厳しくなると、人はつい自罰的になってしまいます。しかし、あなたがあなたの日常を苦痛に満ちたものとしたところで、誰も救われたりはしません。どうか、それだけは忘れないでください。