1秒でつかむ 「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術で、人気番組『家、ついて行ってイイですか?』の企画・制作術を惜しげもなく明かしたテレビ東京プロデューサーの高橋弘樹氏。コロナ禍で『家、ついて~』の「駅で声を掛けて家についていく」という根本的なコンセプトが不可能になってからも、番組の撮影術を公開しつつ海外に住む日本人に自作動画を撮ってもらって放送したり、過去の出演者にリモート取材して「あの人は今」に切り替えて構成したりと、「コロナ禍だからこそ」の臨機応変なコンテンツ制作を続けている。
そんな高橋氏がまたしても、おもしろそうな番組を作っているらしい。とはいえ、ただの番宣記事はつまらない。「じゃあ、その企画の発想法を書いてください」とお願いして、書いてもらった。テレビマンはコロナ禍の今、どんなふうに企画を作っているのか? ぜひ参考にしてほしい。(構成:編集部/今野良介)。

旅ができないから、「一人JTBプレイ」をやってみた

「とりあえず山麓、突き当たりの旅」
「冬にトトロを探す旅」
「東京23区ビーチ」

 最近、勝手にテーマを決めて旅をして遊んでいる。

 コロナ禍で大きく変わったことの1つが、旅が自由にできなくなったことだ。飛行機にのって、遠くへ移動することはままならない。だからといって、東京在住の自分にとって、ふつうに箱根や熱海、というのは行き飽きた。

 ならば、近場で「未知の世界」を発見するしかない。そこで始めたのが一人JTBプレイだ。身近な場所を「テーマ」を決めて「再編集」する。そして、自分だけの「一人JTBツアー」を作り出すのだ。

 例えば、よくしらない山にターゲットを決め、その山麓のまわりを車で走りながら、山へ向かって入っていく細道を1つずつ突き当たりまで行ってみる。ヤギを飼ってる謎の家や、猫が支配する山の上の無人神社など、思わぬ無名観光名所にいきつく。

 あるいは、「トトロの里」とされ、夏の観光地のイメージが強い狭山丘陵に冬にいってみる。みかん狩りや温泉を楽しめるが、もちろん子どもはトトロを探したがる。しかし「冬なのでトトロはいない」と見つからなかった理由を明確にできるので、子どもが傷つかない。

 そして、沖縄に行きたいが行けないので、とりあえず東京23区にあるビーチを巡ってみる。じつは、東京23区にも砂浜のビーチはいくつかある。有名なのは江東区のお台場だろう。それ以外にも江戸川区には葛西臨海公園に「西なぎさ」という、橋で渡れる島があり、そこには泳げるビーチもある。

 品川区なら大森海岸は駅名にもなっているので有名だが、この区にも城南島という橋で渡れる島がある。ここのビーチは駅からかなり離れている上、城南島は人が住んでいる場所ではないので、平日は東京とは思えないひと気のなさ。沖縄のプライベートビーチに来ていると強く思い込めば、思い込めなくもない心地よさだ。

テレ東プロデューサーが明かす「コロナ禍の企画術」東京都品川区・城南島のビーチ。羽田空港に離発着する飛行機を間近に見ながら悶々とできる穴場スポット。

 そんなこんなで、旅が好きで生きがいだった私はコロナ禍、一人JTBプレイに勤しんでいた。「コロナ禍」とはいったが、正確にはそれが原因ではない。最近、いろいろあってお小遣いが減らされ、旅行にいくお金がなくなったのが大きい。確かに遠くへ行くことは自粛しなければならないのだが、それ以上にいく金がなくなっただけという事情もあった。

 この遊びのコツは、自分なりに①「テーマを決めて」、②「近場を再編集する」ことだ。そうすれば、少ない軍資金で、いくらでも近場に未知の旅を発見できる。

 そして、この旅のいいところは、旅の最中も楽しいが、旅を作る過程も面白いところだ。旅を作る過程はなお、お金がかからない。

「ゆかりの地」を散歩する企画

 こうして一度も飛行機に乗らず2020年を終えようとしていた頃、企画の募集があった。小惑星探査機・はやぶさ2を題材にした企画募集だった。そこで、ここ最近はまっていた一人JTBプレイを、そのまま企画に転用することにした。

 はやぶさ2は、「未知の小惑星の直径わずか6mの場所にピンポイントタッチダウンを行う」「そこに人工クレーターを作り砕いた岩石を持ち帰る」など、数々の世界初の偉業をなしとげ、2020年末に地球に帰還した。

 そんなはやぶさ2にまつわるスポットを「聖地巡礼」する「はやぶさ2散歩」をできないか。そう思った。だが、はやぶさ2が打ち上げられた種子島や、はやぶさ2が地球へ帰還した際、降り立ったオーストラリアへは、このコロナ禍、もちろん行けない。

 なんとか一都三県くらいで「はやぶさ2散歩」できないかな、と思い調べたら。意外や意外、東京や神奈川にはいくつも「はやぶさ2」にまつわる聖地として、その魅力を再発見できる場所があったのだ。

 運用の中核を担ったNECやJAXAのプロジェクトチームメンバーにもヒアリングし、東京と神奈川で、9つの世界初を成し遂げた奇跡のプロジェクト「はやぶさ2」成功の秘密をひもとく、「散歩コース」を作ってみた。

テレ東プロデューサーが明かす「コロナ禍の企画術」神奈川県 新田稲荷神社。「迷子の神社」として知られ、小惑星探査機が無事戻ってくるよう、関係者らが何度もお参りした。

 迷子を探すことにご利益がある神社・新田稲荷神社。
 水道橋の宇宙ミュージアムTeNQ。
 古くから霊山として知られる伊勢原市の丹沢大山。
 そして淵野辺駅前の餃子の王将。

 当初は思いもよらなかった旅のコースが浮かび上がってきた。

 コロナ禍で旅行がままならないという雰囲気のもと、じつはお小遣いが減らされたという本当の原因からうまれた一人JTBプレイを、さらにテレビの企画として進化させたのが、『世界一役に立つ!大人の社会科見学 〜世紀のプロジェクト!はやぶさ2成功の秘密〜』という番組だ。

テレ東プロデューサーが明かす「コロナ禍の企画術」出演者は岡田圭右、入山杏奈(AKB48)、荻野由佳(NGT48)、森香澄(テレビ東京アナウンサ)、杉田精司(東京大学教授)(以上、敬称略)。

 2月28日(日)の夕方4時から、テレビ東京で。