時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』がダイヤモンド社から発売されました。好評につき発売6日で大増刷が決定! 本連載では、同書の中から抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお届けします。好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ。

トヨタで実践される<br />「強い事業体=人づくり」<br />というマネジメントPhoto: Adobe Stock

トヨタはおもしろみのない企業

 トヨタは長期間、極めて堅調に事業を発展させてきた日本の代表格の企業です。

 一般的にこの手の優良企業はマスコミにとって、ネタ元としてはおもしろみのない企業です。決算の度に「日本企業としては史上最高益となった」との報道を目にするか、あとはせいぜい為替の変動時に「トヨタの規模では○○○億円の減益要素」が取り上げられる程度です。

 ところが近年そこに、次世代の移動手段として電気自動車が現れ、早々にテスラがグローバル市場において展開を始め、脚光を浴びました。

 トヨタは地球環境への影響を考えて、電気自動車ではなく水素エンジンを提唱していましたので、トヨタが時代の変化に取り残されるのではという危機説がマスコミで唱えられました。

 これは、世界金融危機の影響で2008年にトヨタが赤字決算を発表した時、そして2011年に東日本大震災でトヨタの部品の物流網が分断されてものづくりができなくなった「ダウン」サイド報道以来の大きな取り上げられ方でした。

 マスコミで流される情報だけを見ていると、自動車市場が瞬く間に変貌してしまう印象を抱いた方も多いと思います。たとえば近年、IT主軸のハイテク都市として急激に産業構造が変化した中国の深圳(しんせん)などでは、すでに多くのテスラ車が街中を走っています。

 しかし、実際にテスラ車を有している方の多くは、この車が特に初期の出荷分では時折、フリーズを起こすことを知っています。テスラのサービスに連絡をすると「ログを確認するので、フリーズした日時を教えてください」と言われ、安全性、安定性が最重要なはずの自動車を、まるでスマートフォンかPCのように扱われて困惑したという話もあります。

 現に、時の人となったテスラの創業者のイーロン・マスクが、会社に寝泊まりしなければならないほどに忙殺されている状態がつい最近まで続いていたことはご本人の口からも語られています。

 普通に考えれば、これはトラブル対応にトップ自身までもが忙殺されている、言い換えれば組織そのものがうまく機能していないことを意味し、この事業規模に至っても、必ずしも事業初期の騒乱状態だけで片づけられないレベルで、事業運営が安定していなかったことがうかがえます。

 2019年11月の電動ピックアップトラックのデモンストレーションの際にも、耐久性を誇示しているはずの窓ガラスがマスコミの目の前で砕けてしまいました。トップが独走し事業体としては整合性がとれていない状態が、まだ続いているのでしょう。