自分の居場所と学び舎を探し続ける「外国にルーツを持つ子どもたち」写真提供:多文化共生センター東京

現在、日本には290万人あまりの外国人が暮らしている。「外国にルーツを持つ子どもたち(外国につながる子どもたち)」も年々増え、その国籍や母語の多様化が目立ってきている。「外国にルーツを持つ子どもたち」のひとつの課題が日本語の習得であり、教育機関や各家庭にとどまらず、NPO、ボランティア団体の支援がなされているものの、その実情はあまり知られていない。高校進学を目指す「外国にルーツを持つ子どもたち」へのサポートなどを行う、認定NPO法人 多文化共生センター東京の枦木典子代表理事に話を聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「ダイバーシティが導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

ようやく見えてきた「外国にルーツを持つ子どもたち」

 文部科学省の調査によれば、全国の公立小学校・中学校・高等学校・義務教育学校・中等教育学校・特別支援学校に在籍する児童のうち、日本語指導が必要な生徒が約5万人(約4万人が外国籍、約1万人が日本籍*1 )いる。また、学校に在籍していない、不就学の可能性がある「外国にルーツを持つ子どもたち*2 」が約2万人という調査結果*3 もある。いまや、「外国にルーツを持つ子どもたち」の就学や日本語指導は、国や自治体が取り組む重要課題のひとつになっている。

*1 「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(2018年/平成30年度)によれば、日本語指導が必要な児童生徒数は5万759人で前回(2016年/平成28年)調査より6812人増加(15.5%増)、日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数は4万485人で前回(2016年/平成28年)調査より6150人増加(17.9%増)、日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒数は1万274 人で前回(2016年/平成28年)調査より662人増加(6.9%増)している。
*2 文部科学省などは「外国につながりのある子どもたち」とも表記している。明確な定義はないが、主に、「両親、あるいは親のいずれかが外国出身者である子ども」を指す。
*3 文部科学省「外国人の子供の就学状況等調査結果(確定値)」(2020年/令和2年3月)より

枦木 「外国にルーツを持つ子どもたち」に対しての社会全体の理解と施策はなかなか進んでいません。私たちは、この20年くらいずっと、「外国にルーツを持つ子どもたち」の学びをサポートしていますが、不就学の子どもが2万人近くいる事実が広く知られることはありませんでした。国が多様な外国人を受入れる体制*4 をとり、メディアがその家族である子どもたちも取り上げるようになり、“見えていない子どもたち”の存在があらわになってきました。在留資格を持つ、義務教育年齢の子どもの数と文部科学省で把握している公立学校の在籍人数にたいへんな差があることは私たちの間で知られていました。実際、毎年の教育相談の中には、不就学の状況にある子どもの親(保護者)からの切実なものがあります。話を聞くと、「えっ?この日本で本当にそんなことが?」という衝撃的なことも…例えば、中学生の年齢の子どもを持つ親(保護者)が自治体の窓口で相談したとき、「日本語が分からなければ、受入れは難しいです」「外国人は義務教育ではないから」と言われ、家にいるしかない子どもの相談が毎年あります。国籍にかかわらず、子どもが本来持っている“学ぶ権利”*5 が保障されていないこと、学びたくても学べない子どもたちがいるという深刻な問題が続いていたのです。

 このような中、やっと、社会が「外国にルーツを持つ子どもたち」の実態を把握し始め、さまざまな情報が発信されるようになったことは前進です。これまで、日本では、行政を補完するかたちでNPOや地域の支援団体が彼ら彼女たちを支えてきましたが、その声は、社会になかなか届かない状況でした。

*4 以下、外務省ホームページ「入管法改正による新しい在留資格特定技能の創設」より
【外国人材の受入れ・共生のために】
日本政府は、外国人労働者受入れ拡大を目指す改正出入国管理法に基づき2019年4月に創設される新在留資格「特定技能」に関する基本方針や分野別の運用方針、外国人全般に対する総合的対応策を閣議などで決定しました。公的機関や生活インフラの多言語化など、急増する外国人を「生活者」として迎え入れる基盤の整備を国主導で進めるものです。
*5 日本国憲法・教育基本法で義務教育を保障しているのは「国民」であり、外国人の子どもの保護者に対する就学義務はない。一方、文部科学省は、外国人の子どもの公立義務諸学校への受入れについて、「外国人がその保護する子を公立の義務教育諸学校に就学させることを希望する場合には、無償で受け入れており、教科書の無償給与や就学援助を含め、日本人と同一の教育を受ける機会を保障している」と明言している。(文部科学省「外国人児童生徒等の教育に関する現状について」「外国人の子等の就学に関する手続について」など)

 枦木さんが代表理事を務める多文化共生センター(認定NPO法人 多文化共生センター東京)は、高校進学を目指す「外国にルーツを持つ子どもたち」の学習指導の場として「たぶんかフリースクール*6 」を開校している。2005年度からスタートして、昨年度(2019年度)までに650名以上の卒業生を送り出してきたが、この1年は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を免れなかった。

枦木 現在(2021年2月末時点)、たぶんかフリースクールは、荒川校と杉並校を合わせて、35名の生徒が在籍していますが、昨年(2020年)の4月5月は休校でした。6月の再開以降も、小まめな消毒作業や机をパーティションで区切るといった感染予防はもちろん、授業時間を減らし、早めの下校を心がけるようにしています。「外国にルーツを持つ子どもたち」は、オンライン学習などの環境整備がままならず、休校期間中は自宅に課題を郵送するかたちでした。4月スタートの1年間のスクール生活で、子どもたちは、地域との交流もないまま最初の2カ月間はひたすら自宅待機という状況で、6月になって、対面での学習を待っていた子どもたちは笑顔いっぱいでした。

*6 外国にルーツを持つ子どもたちが、日本語や教科を勉強できる学びの場と居場所を提供。子どもの年齢は主に15歳以上で、母国で中学を卒業して来日したため、公立中学校に入学できない学齢超過の子どもも学んでいる。通常は、火曜日から金曜日の週4日/1日5時間授業(9:50~15:40)。(認定NPO法人 多文化共生センター東京のホームページ【たぶんかフリースクールについて】より)

自分の居場所と学び舎を探し続ける「外国にルーツを持つ子どもたち」たぶんかフリースクールの教室は、密にならない配置の机がアクリルパーティションでしっかり区切られている 撮影:オリイジン

 多文化共生センター東京のホームページでは、多言語で案内された「新型コロナウイルス関連情報」や「多言語学習教材」のほか、「高校進学情報*7 」とくくられた、詳細な教育進路情報もダウンロードできるかたちで、たぶんかフリースクールに通わない子どもたちや保護者にとっても貴重な情報源になっている。

*7 【高校進学情報(こうこうしんがくじょうほう)】として、「2021年都立高校 入試日(にゅうしび)のコロナ感染症(かんせんしょう)対応(たいおう)」「2021年度 東京都(とうきょうと)高校進学(こうこうしんがく)ガイド」などがアップされている。

枦木 コロナの影響で直接に伝えられないことが多いので、(ホームページでも)なるべく多くの情報を発信しています。東京都の高校入試日程や受験日の感染防止はどうすべきかなど…最近(編集部注:取材は2月初旬)も、2つの資料を新たにアップしました。難しい言葉を避けた“やさしい日本語”で、パワ―ポイントを使った資料です。

 以前から案内している「多言語学習教材 数学用語集・理科用語集」は、中学校3年間の学習内容を網羅したもので、フリースクールで教える先生たちが、子どもたちに役立つ教材を渡したいと数年がかりで作り上げたものです。子どもたちは、生活するための言語は早く修得しますが、学校で使う学習言語は、数年かかると言われ、多くの子どもたちが、教科書を前に立ち往生しています。年少者向けの多言語での教材が少ない中、学校でまとめてご注文いただくなど、いろいろなかたちで活用いただき、東京都内だけでなく、全国からお声をいただいています。

 

認定NPO法人多文化共生センター東京
代表理事 枦木典子(はぜきのりこ)

長野県松本市出身。小学校教師を務めたのち、多文化共生センター東京の活動に参加。 2006年より7年間、「たぶんかフリースクール」で日本語や教科を担当し、学齢超過の子どもたちと触れ合いながら、高校進学をサポートする。2013年より理事、事務局スタッフ。2014年専務理事、代表代行。2015年4月より代表理事。