「お金持ちになるにはどうしたらいいのか」という疑問にこの連載ではいろんな角度から答えを示していきます。お金持ちなら誰でも知っている秘密を明かしていきます。
その疑問の答えにたどり着くには「お金」「経済」「投資」「複利」、そして「価値」について知っておく必要があります。少し難しい話も出てきますが、今は完全にわからなくても大丈夫です。
資本主義の仕組みについても、詳しく解説していきます。なぜなら、資本主義の世界では、資本主義をよく知っている人が勝つに決まっているからです。
今後の答えのない時代において、どのように考えながら生きていけばいいのか、ということもお話ししていきたいと思います。さあ、始めましょう!
(もっと詳しく知りたい人は、3月9日発売の『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)を読んでください)

コロナ リモートPhoto: Adobe Stock

「価格」とは何か?

皆さんはファミリーレストランでご飯を食べる時、ハンバーグ定食の値段を当てることができますか?

ホテルでご馳走のディナーを食べる時に、自分が注文したメニューがいくらなのか意識したことはあるでしょうか?

価格というものを考える上で参考になるアプローチをいくつか紹介しましょう。

一つめは「コスト(費用)」という切り口です。イタリアンレストランに行った時のことを想像してみましょう。君たちがパスタを食べてから会計するまでに、どんなコストがかかっているでしょうか。パスタや調味料の材料費、シェフやウェイターの人件費、光熱費、レストランの地代などでしょうか。これらの費用の上にレストランは儲けである利益をのせて、君たちに請求する価格を決定します。このようにレストランの場所(地代)、使われている材料、働いている人数などの費用を考えることは、いただく料理の価格を推測する手法の一つになります。

価格を分析する上で役に立つアプローチの2つめは「プロセス」に分けるというものです。

たとえば、皆さんが床屋に行って3000円支払ったとしましょう。床屋に入って椅子に座りました。すると、①髪をカットしてもらいました。②ヒゲを剃ってもらいました。③頭を洗って、乾かしてもらいました。そして最後に④肩をもんでもらいました。これらすべてのサービスを受けて3000円なのです。この時、カットには1500円くらい、シェービングに800円くらい、というように総額3000円という床屋さんに払うお金を、作業ごとに分解していくのです。

こういうアプローチを「アンバンドリング」といいます。世の中の財・サービスの多くは「バンドリング」されています。簡単に言うとセット販売です。デパートの福袋はバンドリングの典型例ですね。他にもパソコンとソフトウェアはセットで売られており、別々に買うよりも少しだけ安く価格設定されています。携帯料金などもいろいろな(あまり使わない)サービスがくっついています。

一方、君たちの中にも使っている人はいると思いますが、カットだけで1200円(2021年2月現在)という「QB ハウス」のサービスはアンバンドリングサービスの一種なのです。

価格決定を考える上でもう一つ考えるべきは「競争」です。競争経済においては、公正な競争は価格を下げるプレッシャーになります。たとえば牛丼チェーン同士の競争は熾烈を極めるので、君たちはすごく安い価格で牛丼を食べることができます。半面、公正な競争が行われていない財・サービスでは、消費者は高い価格で我慢せざるをえません。

たとえば毎月払っている携帯電話料金は2021年に一気に値下がりしましたが、それでは他の国との比較でも非常に高いままに放置されていました。これは代表的な携帯電話会社3社に競争原理が働いていなかったことを意味します。本来であれば、人気タレントを使った似たようなコマーシャルに高い費用を使ってライバルから利用者を奪うことよりも、料金を下げることで勝負すべきでしょう。しょせんどのキャリアを使ってもほぼ同じサービスなのだから......。

国から言われたらすぐに値下げができること自体が、まともに競争してこなかった証拠でしょうね。牛丼チェーンと違って、携帯電話のような規制産業ではこのようなことが起こりがちです。レストランやスーパーに行ったら、モノの値段がある程度当てられるくらいになるまで経験を積みましょう。こちらの方は「価値」の本質を考えるよりも圧倒的に簡単です。紹介した3つのアプローチで分析的に考えることで、福袋を買って後悔するような可能性を減らすことができるはずです。

参考記事
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奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)など。