大企業で働く障がいのある社員は、コロナ禍でどうしているか?

障がい者がイノベーションを創出するための支援を行う一般社団法人 企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)が、昨年2020年秋に、会員企業(全37社)で働く障がいのある社員に対し、“新型コロナウイルス感染症拡大の影響について”の調査を実施し、その結果を先月(2021年2月)に発表した。ACEの会員企業は日本を代表する大企業だが、その中で、障がいのある社員の声はいったいどのようなものだったか――栗原進事務局長に話を詳しく聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「さまざまな障がい者の雇用で、それぞれの企業が得られる強み」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

大企業が行うテレワークの積極推進と従業員対応

 今回の調査*1 は、一般社団法人 企業アクセシビリティ・コンソーシアム(以下、ACE)の会員企業で働く障がいのある社員を対象に行われた。その結果として、栗原事務局長が最も「意外だったこと」、新たに「気づいたこと」は何か?

*1 アンケート調査概要は下欄参照。ACEによるプレスリリース「障害のある社員のコロナ禍における働き方についてのアンケート調査結果」参照

栗原 ACEの会員企業*2 は大企業ということもあり、回答者の約9割が、コロナ禍で「短期または長期の在宅勤務」を経験されました。意外だったのは、「コロナ収束後も、働く場所を選ばず、自由な時間で働きたい」という回答数が、「元の通勤・出社ができる環境に戻ってほしい」というものを大幅に上回ったことです*3 。通勤などの移動を伴わず、また、自身の体調に合わせて働く時間帯を調整できるテレワークを望む声が圧倒的でした。これは、コロナ禍以前から望まれていたことで、実際のテレワークで、生産性を落とさずに業務をすることが証明されたからかもしれません。

 もうひとつ、聴覚に障がいのある方*4 からの意見で多くの気づきがありました。マスクをする人が増え、唇の動きが見えずにコミュニケーションが困難になったというのは調査前から予測していたことでした。そのことが如実に結果に表れましたが、オンライン会議やテレワークによる働き方で、聴覚に障がいのある方から、仕事の生産性が大幅に向上したというコメントを多数いただきました。「自宅からのオンライン会議はマスクをしないために口元が見える、音声をデジタルデータで取得できるので字幕への変換や記録ができ、後で読み返すことができる」「初めて会話する人にもチャットツールであれば文字で尋ねることができるので聞きやすい」「チャットやメールでのコミュニケーションは文字で確認できるので誤解や間違いが大幅に減った」といった意見が寄せられたのです。

 コロナ禍でITツールを使ってテレワークをしなければならない状況になったこと*5 が、結果的に、障がいのある方を移動による制約から解放し、仕事の生産性を向上させることにつながりました。

*2 ACE会員企業は2020年10月1日現在で37社。会員企業(50音順)ほか、ACEの沿革・行動指針(ACE憲章)などはACEホームページ内「ACEとは」参照。
*3 「ウィズコロナ時代の働き方について希望することは?(複数回答可)」という問いに対し、「場所を選ばない働き方」「自由に時間を使える働き方」への希望が多数となり、「以前と同じに戻ってほしい」は25%程度になっている。(ACE[コロナ禍における働き⽅調査結果報告]より)
*4 アンケート回答者657人のうち、「聴覚障がい」は109人(複数選択可)。詳細は、下欄【アンケート概要】参照。
*5 ICTツールの活用で良かったこととして、「在宅でも参加可能」の回答が半数(49%)、以下、「読み返しできる」(19%)、「情報共有が活発化した」(18%)となっており、「その他」(14%)の回答では、「時間・場所の制約からの解放」「情報取得の正確性の向上」などの答えが多数を占めた。(ACE[コロナ禍における働き⽅調査結果報告]より)

【アンケート概要】
調査期間:2020年10月20日~11月9日
調査方法:ACE会員企業(37社)に勤める障害のある社員へアンケート調査
有効回答数:657
担当職種は、事務職386人、技術職(内勤)124人、特例子会社勤務104人、
営業職25人、技術職(外勤)11人、その他6人、販売職1人
障がい種(複数回答)は、肢体不自由270人、聴覚109人、内部105人、精神87人、
発達49人、視覚48人、指定難病31人、知的15人、その他5人

 ACEは、2013年に、 業種・業態を超えて志をひとつにした大手企業が「障がい者雇用の新しいモデル確立」を目指して設立された。現在は第8期を迎え、会員企業は日本を代表する大企業ばかりだが、今回のアンケート調査において、“大企業で働く障がい者”という回答者属性から見えたものは…。

栗原 今回のコロナ禍以前から、在宅勤務*6 などのテレワークを実施済みの企業もありました。また、回答者の約9割が一時的なものも含めテレワークを経験しているため、どの企業もテレワークの環境がすでにあったか、あるいは、すぐに始めることができていきます。これはやはり、大企業ならではの対応でしょう。単に通信インフラや機器の貸与にとどまらず、業務プロセスやフローの明確化、必要なときにきちんと連絡が取れる体制、勤務状況をきちんと管理する仕組みなどが明確になっていなければなりません。そうした環境が整っていることから、「毎日、在宅勤務でよい」「移動が少ないサテライト・オフィスを準備してほしい」「生産性を上げるためのオンライン・ツール群を充実してほしい」などの意見が寄せられたようです。

*6 在宅勤務の良かったこと(在宅勤務をした⽅のみ複数回答可)として、「通勤しなくて良かった(感染リスクに対する安心感)」「時間に余裕ができた」 の回答が多数を占めた。(ACE[コロナ禍における働き方調査結果報告]より)

一般社団法人 企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)

https://www.j-ace.net/

大企業で働く障がいのある社員は、コロナ禍でどうしているか?コロナ禍のため、昨年(2020年)の「ACEフォーラム2020」はオンラインで開催された 写真提供:一般社団法人 企業アクセシビリティ・コンソーシアム

一般社団法人 企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)は、「企業の成長に資する新たな障がい者雇用モデルの確立」というミッションで、2013年9月に設立された。さまざまな業種業態の企業が中心となり、人事担当者や障がいのある社員向けのセミナーや研修を行っている。昨年2020年12月にオンラインで開催された「ACEフォーラム2020」(左写真)では、基調講演のほか、ACEの活動報告、ACEアワード(企業で専門職として活躍している障がいのある社員をロールモデルとして表彰)の発表が行われ、参加メディアや企業関係者に、障がい者雇用の現在形と当事者の活躍を披露した。