齋藤孝 明治大学文学部教授と安住紳一郎 TBSアナウンサー。日本最高峰の話し手2人がタッグを組み、多くの読者の支持を集めてベストセラーとなった『話すチカラ』。その刊行から1年、マンガ版『マンガでわかる 話すチカラ』が満を持して刊行された。
本書の主人公は、高校教師を目指す明治大学3年生の柏木美桜さん。教職課程の授業を受け持つ齋藤孝教授と安住紳一郎アナが「話し方のコツ」を惜しげもなく伝授。内気で話下手の主人公が、学びを得ながら少しずつ自分を向上させていく――という成長物語である。
本書刊行を記念して、作画を担当した漫画家・百田ちなこ、シナリオを担当した渡辺稔大、そして担当編集者が、それぞれの視点から制作秘話や本書に込めた思いを熱く語り合った模様を3回にわたってお送りする。

マンガ家・百田ちなこの才能に脱帽

マンガ家・シナリオライター・編集者が語る<br />『マンガでわかる 話すチカラ』制作の苦労話百田ちなこ(ももた・ちなこ)
福島県出身、埼玉県在住。漫画家・イラストレーター。コミックエッセイ、4コマ、広告漫画等を中心に活動中。著作に『地方女子の就活は今日もけわしい』(KADOKAWA)、『理系夫とテキトー奥さん』(イースト・プレス)、作画に『これからの生き方。』(世界文化社)。Twitter / Instagram @momotachinako
マンガ家・シナリオライター・編集者が語る<br />『マンガでわかる 話すチカラ』制作の苦労話渡辺稔大(わたなべ・ねんだい)
1975年、栃木県佐野市生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社 → フリーター→ 出版社 → 編集プロダクションを経て、フリーランスライターに。ライティングと編集に携わり現在に至る。プライベートでは合気道に取り組み、純喫茶と銭湯が憩いの場。

編集者 おふたりが今回の『マンガでわかる 話すチカラ』の制作過程で苦労されたのは、具体的にどんなところですか?

渡辺稔大(以下、渡辺) 最初の打ち合わせで、第1話は「齋藤孝先生の授業に主人公の大学生・美桜ちゃんが出席したところ、そこに大学の卒業生である安住紳一郎アナが特別講師として登場する」という素直なストーリーにしようと、大まかなプランを話しました。ところが、いざシナリオを作り始めたら、美桜ちゃんが話し下手であることをどう印象づけるか、という問題で早速壁にぶつかってしまったんです。

そこで、いろいろ考えて、「バイト先でお客さんの応対に失敗する」というシーンを書くことにしたんですけど、これがなかなかうまくいかない。お客さんが面倒くさい人になりすぎると、「お客さんが、ただのクレーマーでしょ」という印象になってしまう一方で、お客さんにある程度は迷惑がかからないと「うまく話せない」という状況が伝わらないわけです。

何度か書き直して、どうにか完成した原稿を送った後、百田さんが「ちょっとアレンジしていいですか?」とおっしゃったので、お任せしたんです。そうしたら、私が不安に感じていた部分が見事に補強されて、説得力ある内容に落とし込まれていました。それを見た瞬間に、「この人、天才だ!」と思うと同時に「あー、この人がいるからもう大丈夫!」と安心しました(笑)。その後も、百田さんがアレンジしたり追加したりした部分は、文句のつけようがなかったので、本当に助けてもらったという気持ちでいっぱいです。

編集者 それは本当にそうでしたね。僕は俯瞰した立ち位置で、完成したシナリオを引き継いだ百田さんがネームを起こす工程を見ていたんですけど、そこで「へー、こうなるんだ!」という変化を何度も目の当たりにしました。

僕自身、マンガ本を編集するのは初めてのチャレンジでしたけど、本書の制作チーム内では唯一実績をお持ちの百田さんがアンカーとして機能したのは本当に救いだったと思います。いつか百田さんが超売れっ子になったら、「彼女を育てたのはオレだぞ」ってドヤ顔で言わせていただきます(笑)。百田さんは今回のお仕事についていかがでしたか?

百田ちなこ(以下、百田) まず、めちゃくちゃ仕事が進めやすくて感動したんですよ。たぶん、今までの仕事で考えてもトップレベルでスムーズだったんじゃないでしょうか。

渡辺 そう言っていただけるだけでありがたいです。それにしても、今回は限られた時間の中、作画の作業が大変だったんじゃないですか?

百田 そうですね。実際にスタートしてから「あれ、このスケジュールおかしいな?」「週刊連載なの?」と思ったんですけど、もうやるしかない(笑)。