暗闘 企業買収の新常識#2Photo:REUTERS/AFLO

東芝の臨時株主総会でアクティビスト(物言う株主)の提案が可決されたことを受け、第三者の弁護士による内部調査が始まった。焦点となるのは2020年の総会運営の適正性で、社長兼CEO(最高経営責任者)の車谷暢昭氏は窮地に追い詰められている。アクティビスト側の真の狙いは一体何か。特集『暗闘 企業買収の新常識』(全8回)の#2は、従来の常識を超えて進化するアクティビストの戦術に迫る。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

東芝問題は経産省vs外国人投資家の代理戦争?
アクティビストを排除する「外為法の壁」

「東芝とエフィッシモの対立は、経済産業省vs外国人投資家の代理戦争だ」――。

 シンガポールの投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネジメントの株主提案が可決された3月18日の東芝臨時株主総会について、ある市場関係者はそんな見方を示す。どういうことか。

 東芝問題でたびたび話題に上るのが、外為法だ。2020年5月に改正法が施行され、非居住者の「外国人投資家」が国防関連企業などの株式を1%以上取得する場合、事前の届け出を求めるなど対内投資に事実上の歯止めをかけた。

 この改正外為法施行の発端が東芝だったことは、霞が関ではよく知られた話だ。

 東芝は15年に不適切会計、16年に米原子力事業の巨額減損損失が発覚して経営危機に陥った際、約6000億円の第三者割当増資に踏み切った。この増資の割当先に名乗りを上げたのが、エフィッシモを含む海外の名だたるアクティビスト(物言う株主)たちだ。東芝の外国人持ち株比率は一時、約7割にまで高まっている。

 これに危機感を強めたのが経産省だ。

 東芝はミサイルの誘導システムやレーダーシステムなどの防衛関連機器を製造する軍需産業の一面も持つ。経産省は安全保障の観点から、東芝への行き過ぎた海外マネーの流入を是としなかった。複数の経済官庁の幹部は、経産省が官邸に外為法改正の必要性を進言したと明かす。

 改正外為法では、外国人投資家が事前届け出の規制対象から外れるためには、自らが役員に就任してはならず、重要事業の譲渡・廃止の株主提案もしてはならないとしている。株主の権利である株主提案権を剥奪する施策とも読み取れ、アクティビストにとっては最大の武器が封印されることになる。

 実際、エフィッシモの前には「外為法の壁」が幾度も立ちはだかっている。