写真:インフレに抗議する高齢者Photo:Smith Collection/Gado/gettyimages

――筆者のウィリアム・ウォーカー氏は元外交官、弁護士、作家で1972年から74年まで米連邦政府の「生活費評議会」の法律顧問兼副長官を務めた

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 米国がインフレ高進を最後に経験したのは1970年代だった。経済評論家はこの歴史上の出来事を正確に記憶しているが、真に理解はしてはいない。彼らの多くは、当時まだ生まれておらず、彼らのうち当時成人になっていた者はほとんどいない。当時の状況は、単なる不都合な状態などではなく、破滅的と言えるものだった。

 1973年第1四半期の食料品の小売価格上昇率は年率30%近くに達した。農産物の卸売物価指数の上昇率は、年率52%となった。同四半期に赤赤身肉の価格は年率90%も急上昇した。家庭用の灯油価格は、同四半期中だけでほぼ倍になり、大豆価格は史上最高値を付けた。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の最近の記事は「コモディティー市場は勢い付いている」と指摘。原油、銅、ニッケルなどの価格急上昇が、一部の人々が予見する「家畜、穀物、金属、石油、ガスなどの価格がすべて何年間、あるいは何十年間にもわたって上昇するスーパーサイクル」の到来を示唆する具体例になっているとの見方を示した。

 これが、1973年春に書かれた記事だと言われても違和感はない。当時は需要が爆発的に増加し、わずか何カ月かで供給サイドへの圧力が異常に高まった。このため、食料品、金属、石油などほとんどすべての商品の価格が急上昇した。その年の夏までにインフレ率は11%へと跳ね上がった。1980年まで年率で2桁に近いインフレ率が続き、ポール・ボルカー氏が議長だった当時の米連邦準備制度理事会(FRB)は、同年に金利を20%近くまで引き上げた。この利上げによってインフレは抑え込まれたが、代わりに深刻なリセッション(景気後退)が始まった。