労働法の新常識#2Photo:PIXTA

昨年4月の民法改正により、「賃金請求権の消滅時効」が2年から5年(当面は3年)に延びた。これにより、今から2年後の2023年4月以降、労働者から過去3年分の残業代を一気に請求される可能性があり、中小企業であれば倒産の危機、大企業であっても大打撃となる。一体どんな会社が窮地に陥るのか。特集『社長が知るべき!労働法の新常識』(全5回)の#2では、『社長は労働法をこう使え!』(ダイヤモンド社)の著者である向井蘭弁護士への取材を基に、具体的なシミュレーションと、関係する重要判例を紹介していく。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)

会社倒産の危機は、
2年後に必ずやって来る

 弁護士が扱う労働事件のうち、現在、最も相談数が多いのが「残業代未払いに関するものだ」と、労働法務専門の向井蘭弁護士は明かす。しかも、昨年4月の民法改正により、今後さらに飛躍的に案件数が増加し、深刻度も増すと考えられる。

 この法改正は、企業にとってはかなり重要だ。内容を正しく理解し、一刻も早く対策を行わなければ、中小企業の場合、瞬く間に倒産の危機にもなり得るほどの金額を請求される可能性がある。

 2020年4月の民法改正の最重要ポイントは賃金請求権の消滅時効期間が5年に延長されたこと。ただし賃金の支払いにおいては、労働基準法が適用され、消滅時効期間は5年ではなく、当面の間3年となる(労働基準法143条より)。

 つまり、昨年から数えて3年後、今から2年後の2023年4月以降は3年分の残業代を、労働者にまとめて請求される可能性があるのだ。さらに複数人から請求されれば、その合計額は数千万円レベルに及ぶだろう。

 会社の危機は、2年後、確実にやって来る。対策しないとどんなことが起こるのか、どの程度の額を請求される可能性があるのか。次ページからは、具体的な事例を挙げてのシミュレーションを紹介する。

 紹介する事例は運輸業、飲食業から医療業、コンサルティング業まで幅広い。そして、年俸制を導入している場合、管理職に残業代を払っていない場合など、多くの日本企業に当てはまるケースも見られる。さらには、かなり高額な給料を支払っていた会社でも、残業代の請求は起こっている。

 現行の給与体系で問題ないと安心している経営者にこそ、読んでほしい。というのも、解説する判例はどれも、会社側は悪意をもって残業代を払っていなかったわけではなく、正当なルールだと考えて給与を支払っていたからだ。