労働法の新常識#5Photo:PIXTA

コロナ禍の影響で、民事裁判の多くがオンライン裁判になった。さらに、労働事件のカジュアル化が進んでおり、その背景には大手新興系法律事務所がつくってきた新しい弁護士業界のトレンドがあった。そこで、特集『社長が知るべき!労働法の新常識』(全5回)の最終回では、労働法務専門の向井蘭弁護士への取材を基に、労働事件がカジュアル化している背景や実態に迫った。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)

弁護士が家から15分だけ裁判!?
オンライン裁判「カジュアル化」の事情

 コロナ禍により、あらゆる業界で非接触や在宅勤務など、強制的な変化があったが、実は弁護士業界もその一つ。シンガポールではオンラインで死刑判決を出したという話もあるが、実は日本でも、民事裁判に限りオンライン裁判が一気に浸透しているのだ。

 裁判所では、以前からオンラインの一部導入を進めようとしていたが、コロナ禍により導入が一気に進んだ。ちなみに使用しているツールは米マイクロソフトの「Microsoft Teams」だ。

 これにより、「弁護士が自宅から15分だけ裁判に出る」――そんな話も冗談ではなく、実際に起こるようになった。日本の裁判風景は激変したわけだが、「思ったよりも支障はない」と向井蘭弁護士は言う。

 変わったのは民事裁判だけで、人の感情が強く絡む家事裁判、刑罰に関わる刑事裁判はいまだにリアルで行われている。民事裁判は最終的にお金で解決するものが多い性質から、効率重視でもうまくいくのかもしれない。

 また、大きく変化したのは裁判だけではない。近年は弁護士業界の中で、労務関連の案件を扱う頻度が徐々に増えており、“労働事件自体のカジュアル化”が進んでいるのだ。

 公的な統計には出ていない情報だが、「労務トラブルで増えているのは、訴訟件数ではなく弁護士同士での交渉件数だ」と向井氏は言う。つまり、業界全体で、裁判になる前の交渉段階で解決する “カジュアルな事例”が増えているのだ。

労基署だけじゃない!
経営者が恐れるべき弁護士事務所

 労働事件がカジュアル化すればするほど、企業経営者はどんどん危機的状況に追い込まれることになる。なぜなら、労働者側が法律事務所に駆け込む可能性が高くなるからだ。

 昔は労働問題といえば労働基準監督署が恐れられていたが、今はそれに加えて弁護士も恐れるべき存在になってきたといえるだろう。

 解雇、パワハラ、過労、未払い残業代などの労働トラブルが、より一般人にとって身近になる時代が迫っているのだ。経営者は一刻も早く、ホワイト化に尽力することが賢明だ。

 では、なぜ労働事件をカジュアルに扱うケースが増えているのか。その理由は、弁護士業界にビジネスの風を吹き込んだ大手新興系法律事務所のトレンドや、労働事件を扱う弁護士の人数など、大きく三つ、挙げられる。