生活保護で音楽活動、
そして自立へ

朝霧裕さん朝霧裕さん。筋萎縮症が年々進行する中、歌声は深みを増す。マイクは生活保護では経費として認められないため、2020年の特別定額給付金で購入した

 先天性の筋委縮症を持つシンガー・ソングライターの朝霧裕さんは、「車椅子の歌姫」として知られている。朝霧さんの毎日は、作詞作曲、イベント企画、エッセイ執筆、講演、自分が生きて暮らすための介助のマネジメントなど、有償無償の多様な“仕事”で忙しい。朝霧さんが生きて暮らすことを約20年にわたって支えてきているのは、生活保護だ。

 その朝霧さんは、「自分の収入によって生活保護を脱却できれば」という長年の夢の達成に、今、近づこうとしている。

 生まれたときから介助を担っていた母に「祖父母とのトリプル介護をさせたくない」という思いが、朝霧さんを生活保護と単身生活へと踏み切らせた。1日24時間の介助を必要とする朝霧さんは、単身生活の最初の数年間を落ち着いた日常生活のために費やすこととなった。

 妨げとなっていたのは、「生活保護の障害者らしく」というイメージを押し付ける一部の介助者であったり、生活保護叩きへの引け目であったりした。いずれの課題に対しても、解決には介護事業所や福祉事務所の理解と協力が不可欠だった。

 もちろん、生活保護制度の「できることはしてほしい」というポリシーは、朝霧さんに対しても適用される。暮らしが安定すると、就労指導が行われた。しかし、パートタイムで事務職として働き始めた朝霧さんは、通勤と就労によって健康を損ね、入院生活の中で「自分の命と時間を何に使うべきなのか」と、真剣に考えた。福祉事務所にとっても、医療費が就労収入の10倍に達する場合もある状況は“お得“ではない。

 朝霧さんは、就労のための就労を断念し、自分でなくてはできない活動に打ち込む決意をした。