北斎Photo:SDP

映画「HOKUSAI」(SDP配給)が5月28日に公開される。当初はちょうど1年前に公開の予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大に対する緊急事態宣言発令により延期となっていた。この5月の東京などは3回目の緊急事態宣言で、多くの映画作品が公開の見通しが立たなくなっているが、「HOKUSAI」は連日、テレビやネットで広告を多数出しており、5月28日公開は間違いないだろう。しかし、東京や大阪などではシネコンが閉鎖されており、鑑賞するためには事前の確認が必要だ。面倒だが、それだけの価値はある作品である。(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)

意外に少ない葛飾北斎が主役の映画
「北斎漫画」(1981年)は幻想と妄想が充満したファンタジー

 2020年は葛飾北斎(1760~1849年)の生誕260年に当たり、映画「HOKUSAI」の公開をはじめ、全国でさまざまな展覧会が企画されていたが、大半は中止、打ち切り、延期になっていた。

 しかし、映画公開と同様に、今年これから開催される展示企画も多い。たとえば、やはり1年遅れの「生誕260年記念企画特別展『北斎づくし』」(主催・凸版印刷、日本経済新聞社ほか)が7月22日(木)から9月17日(金)まで、東京ミッドタウン・ホールで開催される。

 まず映画だが、北斎を主人公とする映画作品は、意外なことにあまり多くない。新藤兼人監督、緒形拳主演の「北斎漫画」(1981年)くらいだろう。

 また、北斎の娘、葛飾応為(お栄)を主人公にし、北斎も登場するアニメ映画「百日紅~Miss HOKUSAI」(杉浦日向子原作、原恵一監督、バンダイ、2015年)、そしてテレビドラマ「眩(くらら)~北斎の娘」(朝井まかて原作、加藤拓演出、NHK、2017年)があるが、主人公は娘の応為であって北斎本人ではない。

 新藤兼人監督の「北斎漫画」は幻想と妄想が充満したファンタジーで、伝記的な映画ではない。助演の樋口可南子、田中裕子の艶めかしくもエロティックな演技と、北斎役の緒形拳や北斎の養父・中島伊勢役だったフランキー堺の狂気に満ちた演技が話題になった作品で、新藤ワールド全開の映画だった。余談だが、フランキー堺はその後、松竹で映画「写楽」(篠田正浩監督、真田広之主演、1995年)のプロデューサーを務め、同時に蔦屋重三郎を演じている。

 北斎の娘、応為を主人公にした2作も、ほとんど資料がないといわれる応為像を原作者や演出家が取材と想像力で構築した作品だ。「眩」は主演、宮﨑あおいの熱演とともに、NHKディレクター加藤拓の演出力、そしてNHKの美術と撮影のレベルの高さが際立っていた。しかし、これも伝記の要素は大きくない。