小林化工新社長に企業再生請負人、親会社オリックスの「事業譲渡」は?Photo:China News Service/gettyimages

 横文字だらけの文面からも、実態との乖離が見受けられる。

「本社オフィスは、ワークスタイル変革の実現を目標とし、自然と調和した従業員が誇れるデザイン、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略)に基づいた無理・無駄のない省エネ、オープンなオフィス空間による働き方の創造、『空間・情報・人がつながるオフィス』をコンセプトに切れ目のないワークフローを実現させ、社内の一体感を育み、偶発的なコミュニケーションからのイノベーションを生む、新たなオフィスの構築を目指して設計されました」

 19年1月に竣工した新本社棟が、第32回日経ニューオフィス賞の「近畿ニューオフィス奨励賞」を射止めた。冒頭の一文は同年9月に発表されたプレスリリースの抜粋で、誇らしげな様子がうかがえる。ところが、すでにその時点で、空間・情報・人のつながりは歪んでいた。長年にわたる不正の数々が発覚したのは必然だったのかもしれない。

 風光明媚な福井県あわら市に小林化工は拠点を構える。政府の後発品使用促進策を受けて、生産体制を強化した結果、田んぼの中に工場がそびえ立った。さらに、そこへ仰々しいコンセプトを引っ提げた新社屋が後に続いた。

 かつて小林化工は「質実剛健」を彷彿とさせていた。つい5年ほど前まで本社の玄関扉は、手動の「引き戸」だった。余計な部分にはお金をかけたくないという小林広幸社長(当時)の信念があり、同業他社がテレビCMや新聞広告などに力を入れるなか、同社はどこ吹く風で、社員からは「福井でも名前が知られていない」と自嘲がもれるほどだった。それでも福井県下では有数の納税額を誇り、さらにそこへ小林社長の「温厚」「いい人」という評判も手伝い、堅実な印象を与えていた。

 だからこそ本社の変わりように、「身売りをするのではないか」と訝る声が聞こえた。しかし、それが現実になるとは誰が予想しえただろうか。20年1月のオリックス傘下入りに業界は色めき立った。ただ、20年間で10倍以上の売上げという急成長を遂げた小林化工にとって、今後の成長戦略を描くうえで他社とのパートナーリングは欠かせなかったのではないか。新社屋で新たな門出を迎えようとするのも理解できなくはない。