教師#10Photo by Masami Usui

医師と教師は共に尊敬される職業としてステータスシンボルだった。しかし現代、高学力層は教師への道を避け、医師を志す。この差を生んだ一因は、医師たちが加入する「日本医師会」と教師たちの労働組合である「日本教職員組合(日教組)」の政治力格差にある。特集『教師 出世・カネ・絶望』(全15回)の#10では、政治も行政も教師を救えない問題構造を前川喜平・元文部科学事務次官が解き明かす。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

「#教師のバトン」大炎上
教師の魅力を伝える努力は必要なかった

――教師のなり手不足が深刻化する中で文部科学省は、教育現場から教師の魅力を伝えてもらおうと「#教師のバトン」でTwitter(ツイッター)への投稿を求めました。ところが教師たちが学校はブラック職場であることを暴露しまくってプロジェクトは大炎上。文科省の官僚はそうなることを想定しなかったのでしょうか。

 こういう展開になることは多くの官僚が予想できたと思いますよ。それに気が付いていない上層部が考えたんじゃないですか。教師は多忙で学校がブラック職場になっているなんて、今に始まった話ではありませんから。

――上層部の切れ者が確信犯でやったなんてことは?

 それで来年度予算を引っ張ってきて、教員定数(学校に配置する教師の数)をさらに改善するとか、教師の給与体系の見直しにつなげるという意図があったのだとしたら高等戦略ですけどね。

 教師の仕事そのものに魅力があることは、皆さん、すでに知っているでしょう?

――教師や医師は子供がなりたい職業でも常に上位ですからそうだと思います。

 だから「#教師のバトン」で魅力を伝える努力は必要なくて、魅力を阻害しているマイナス要因を取り除くことに力を注ぐべきなんです。

――教師や医師に憧れた子供たちは、年齢が上がると、教師も医師も人手不足でブラック職場がまん延しているという現実を知ってしまいます。

 医師の場合、病院に勤める勤務医が特に激務ですね。

――それでも医師を目指す学生は多いのに教師のなり手が減っているのは、教師の方が収入面などの見返りが小さいからではないでしょうか。高給取りのエリート人生を歩ませたい親は医師より教師を格下扱いしたりする。実際、東京などの都市では、教師になるよりも民間企業で働いた方がよっぽど稼げます。まともな企業であれば残業代も出ますし。