ある日突然、異動や転職などでリーダーを任された。
配属先は慣れ親しんだ場所ではなく、
すでに人間関係や風土、文化ができ上がっている
“アウェー”のコミュニティ(会社組織)。
右も左も分からない中、
「外から来た“よそ者”」の立場で、
いきなりリーダーを任されるケースも
少なくありません。
また、多数のエンジニアを率いる非エンジニアの
リーダーなど、自分の専門外の領域でチームを
まとめなければならない
「門外漢のリーダー」も増えています。
今の時代、「よそ者リーダー」がリーダーの
大半であるといっても過言ではありません。
そこで、新規事業立上げ、企業再生、事業承継の
中継ぎetc.10社の経営に関わった
『「よそ者リーダー」の教科書』の著者・吉野哲氏が
「よそ者」こそ身につけたい
マネジメントや組織運営のコツについて伝授します。
今回は、新任リーダーが陥りがちなワナ、
「前任者を全否定」問題についてお伝えします。
(構成/柳沢敬法、ダイヤモンド社・和田史子)

『「よそ者リーダー」の教科書』著者の吉野哲氏による新任リーダーが陥りがちなワナとはPhoto: Adobe Stock

「前任者の全否定」は
天に唾する“ブーメラン”

再建・再生が必要な事態に至っている以上、前任者の取り組みはすべて間違っている。

だからこれまでのやり方はすべて白紙に戻して、自分のやり方で経営する―。

“よそ者リーダー”の中には着任後、前経営陣を全否定し、「ダメ出し」ばかりに力を注ぐ人が少なからずいます。

「こんな事業計画で再生できると思っていたのか。すべてイチからつくり直し」
「こんな人材登用では人は育たない。これまでの人事や査定はすべて白紙に」
「こんな前時代的な習慣は不要。すべて破棄!」

自分の経営手腕への自信(多くの場合、それは過信やおごりなのですが)や、“よそ者”という立場ゆえの「社内外に自分の存在価値を示したい」といった焦りもあるのでしょう。

でも、だからといって着任早々、「前経営陣のやらかした愚策を、私がすべて直します」的な宣言をするのは、新しいリーダーとして好ましい態度とは言えません。

前任者を否定するなと言っているわけではありません。

たしかに新たに外から招聘されたリーダーに求められている現状を打破する変化やイノベーションが「これまでの方法論を修正して新しいスタイルを構築すること」である以上、「従来のあり方を否定する」というプロセスを避けては通れないのも事実。

明らかに間違っている方法論や悪い慣習は変えていく必要があります。

ただ「最初の仕事が前任者の否定」と言わんばかりに、変えてはいけない方法論、変えるべきではない慣習まで「何でもかんでも」否定するべきではないということです。

「前任者のやり方はおかしいことだらけ(もしくは、間違いだらけ)。
これからはオレの言うことを聞け」─。

新しいリーダー、特に外部からやって来た“よそ者リーダー”のそうした態度は、従業員に「何でも否定的に捉える人」「他者の意見をすべて否定で押さえつけようとする人」という印象を与えてしまいます。

中には社長が口にする「前任者=自分たちも含めたこの会社の人間」と捉え、「自分たちの仕事も全否定された」と不信感を覚える従業員もいるかもしれません。

こうしたネガティブな印象は社全体の士気やモチベーションの低下につながります。社内で信頼関係を築けなければ、経営再建にマイナス影響を及ぼすことは必至。「ただ否定したいがための否定」は、結果として社長自身の首を絞めることになるのです。