「人を動かせる人」「動かせない人」の決定的な差Photo: Adobe Stock

スタンフォード大学の行動科学者であり、スタンフォード大学行動デザイン研究所の創設者兼所長が20年かけて開発した「人間の行動を変える衝撃メソッド」を公開した『習慣超大全──スタンフォード行動デザイン研究所の自分を変える方法』(BJ・フォッグ著、須川綾子訳)が刊行となった。本国アメリカではニューヨーク・タイムズ・ベストセラー、ウォール・ストリート・ジャーナルベストセラー、USAトゥデイベストセラーとなり、すでに世界20ヵ国で刊行が決まっている。
「ダイエット」「勉強」「筋トレ」といった日々の習慣を身につける方法から、悪習をやめる方法、さらには「他人の行動を変える」方法まで、行動の変化に関するあらゆる秘訣を網羅した驚異的な一冊だ。
著者はそれがどんな種類の行動であれ、すべて「能力・モチベーション・きっかけ」の調整によって変化を起こせると説く。本書の理論を頭に入れれば、今後の人生においてとても大きな武器となり財産となるはずだ。本稿では本書から特別に、不満ばかり言っていた息子の行動を変えたケースを例に「人を動かす方法」を紹介する。

不満げな相手にどう働きかける?

 マイクとカーラは追い詰められていた。21歳になる息子のクリスは両親と同居し、大人に求められるほんの些細な責任さえ果たせずにいた。

 18歳で大学に行かなくなってしまった息子だが、そのうち学業に戻るか、仕事につくものと思っていた。ところがそうはならなかった。経済的にも精神的にも支援しているのに、前向きな一歩を踏み出す様子は見られなかった。

 アルバイトはしていたが、身のまわりの片づけや、請求書の支払い、弟と仲よくするといった基本的なことさえできず、家の中には息の詰まるような緊張感が漂っていた。

 クリスが家にいる期間が長引くにつれ、父親であるマイクとクリスの関係は悪化していった。クリスがよそよそしい態度でマイクと距離を保っているあいだはまだよかったが、やがて怒りにまかせて暴言を吐くようになった。

 クリスに掃除や自分が使った食器の後片づけをさせようとすると、1週間は文句や不機嫌な態度が収まらない。部屋を片づけるようにさりげなく言っても、何日も無視される。仕方なく少しきつい口調で言うと、ふてくされたように「はい、はい、わかった」という返事をして、結局は片づけなかった(中略)

 本来マイクはとても有能な人物だ。家庭では大きな悩みを抱えていても、仕事では成功していた。優れた戦略家として、自ら立ち上げた小さな栄養食品会社を、業界を代表する企業にまで成長させてきた。革新的な方法で大きな課題を解決することを追求し、つねに向上しようと努力してきた彼は、最後の望みをかけて私の行動デザイン・ブートキャンプにたどりついた。(中略)

人の行動を変えるには「小さく始める」

 マイクは行動デザインから学んだことを試そうと決意し、「小さく始める」ことの重要性を意識して、まずはコーヒーメーカーの問題から着手することにした。

 これは些細なことのようでいて、日々の苛立ちの原因になっていた。

 マイクは自分のために高級なコーヒーメーカーを購入していた。徹底的に調べて厳選した自慢の品だったので、いつもきれいに保ち、すぐに使えるようにしておきたかった。使用後はかならず、金属フィルターが目詰まりしないように水洗いする必要がある。

 ところがクリスはこれを絶対にしない。いまでは笑い話だが、当時のマイクにとっては腹が立って仕方のない問題だった。

 午前中にマイクがコーヒーを飲もうとキッチンに下りてくると、クリスが放置したコーヒーかすを目にすることになる。そこで成人した息子に代わって片づけをし、仕事部屋に戻る途中でクリスの部屋の前で、「何度言ったらフィルターを洗うようになるんだ?」とか、「父さんのマシンをきちんと取り扱えないなら、使わないでくれ」というような文句を不機嫌にぶつけた。

 クリスは軽蔑したような顔をするか、皮肉を言うかのどちらかで、このやりとりのせいで朝から憂鬱になり、二人とも不満と怒りの悪循環へと追い込まれるのだった。