日本企業の95%は「井の中の蛙」、なぜマネジメントが不在なのか

ワールドクラスに後れを取っているといわれる日本企業だが、一部は猛スピードでマネジメントを進化させている。変革の起爆剤となったのは、意思と行動力、そして経験値を備えたマネジメント人材だ。一方、多くの企業は平成時代の経営を引き継いだままで、変化やチャレンジは絵に描いた餅である。そして、両者ともに意志あるマネジメントは苦悩している。企業戦略が専門の松田千恵子・東京都立大学教授に、日本企業の「マネジメント不在」について聞いた。(マネジメント・コンサルタント 日置圭介)

マネジメントの3つの要諦

日置圭介  松田先生は、経営戦略プロフェッショナルとしてのご経験が長く、現在は研究者として、また日本のコーポレートガバナンスにおいて「番人」ともいえる社外取締役としてもご活躍ですので、日本企業の実態をよくご存じです。この数年で何がよくなっているのか、あるいは変わらないのか、という点をお聞かせいただけますか。

松田千恵子東京都立大学教授
松田千恵子氏

東京外国語大学外国語学部卒、仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士、筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業科学専攻博士後期課程修了、博士(経営学)。日本長期信用銀行(国際審査、海外営業、事業再生等を担当)、ムーディーズジャパン(格付けアナリスト)、ブーズ・アンド・カンパニー(パートナー)等を経て2011年より現職。専門は、企業戦略、財務戦略。大手企業の社外取締役及び監査役、公的機関、企業及びファンド等の委員や顧問を務める。著書に『グループ経営入門』など多数。

松田千恵子 進化しているかどうかという点では、二極化が顕著になっています。10年単位で見ると、意味ある変革の渦中にある企業は確実に増えています。

 ただし、そういう企業がまだまだ少ないのも事実です。進化する企業は5%程度で、残りの95%は相変わらず「井の中の蛙」といったところでしょうか。

 興味深いのは、進化する企業もそうでない企業も、共通している課題は同じなんですね。はっきり申し上げると、マネジメントがない。

日置  また手厳しい(笑)。

松田 それが日本企業の現実です。経営者から総スカンを食うでしょうが、説明しましょう。

 昭和の時代の日本では、企業を取り巻く環境も、カネの面ではメインバンクシステム、ヒトの面では終身雇用や年功序列、協調型組合という日本型経営システムにより安定しており、経営者は事業拡大に集中できました。今なら多様性の欠如とされる均質性の高さは効率を上げるのに役立ちました。しかも、国内市場が比較的大きく、多くの企業が十分食べていけました。つまり、ドメスティックな枠組みの中でオペレーショナル・エクセレンスを発揮した人が出世する構図です。現在求められる意味でのマネジメントなど必要なかったのです。

日置 私も大企業には優秀な事業運営者は多いが企業経営者は不足していると感じています。とはいえ、マネジメントにはそれなりの歴史があり、昭和の経営者たちも勉強はしていたはずですが。

松田 マネジメントには、大きく3つの要素があります。第1に戦略。かつてマイケル・ポーターは来日するたびに「日本の大企業には戦略がない」という指摘をしましたが、これは経営者が仕事をしていないと言われたようなものです。戦略論を教える身としては、今でももっともな指摘だなと感じます。

 2つ目は、1つ目の戦略とセットなのですが、経営管理がないことです。たとえば、財務経理部門には、ファイナンスの視点でバランスシートをマネジメントできる人材が不足しています。

 そして3つ目が、経営人材ですね。先ほど申し上げたように、利益貢献をした人が出世街道を上って経営者になるわけですが、そういう方々が経験してきたのはオペレーションであって、マネジメントではありません。両者の舵取りは、視点やスキル、またその使い方がまったく違います。オペレーション管理で培ったマネジメント・スキルをアンラーニングしないと、全社的マネジメントのリテラシーを体得することはできません。

 日本企業のみなさんにも、「マネジメント不在」に関する焦燥感があるようですが、これら3点の欠如をどうするかについては解が見つからないケースがほとんどのようです。