『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』20万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「学んでも学んでも素人から論破されてしまう」悩みを解決するとっておきの方法Photo: Adobe Stock

[質問]
素人に論破されてしまう

 現在独学をしているものです。自分としては力を入れて勉強しているつもりです。しかし、議論をするとまったくの素人相手に反論できなくなってしまいます。

 議論のやり方をわかっていないことも理由の一つでしょうが、何より勉強して得た知識が身についていないことを突きつけられるようで、いつも自分に失望しています。

 得た知識を体系化し、それと自分の既存の知識との関係を構築し、様々な視点から分析し、説得力を持って人に話せるようになりたいです。読書猿さんのお知恵を貸してください。

素人に論破されるのは、絶好の「学習機会」です

[読書猿の回答]
 残念ながら、体系化・既有知識との接続・多視点からの分析をもってしても、議論で素人には勝てません。あなたが時間をかけて達した今の知識水準に、素人を数分間で引き上げることは不可能だからです。

 さて知識を得て何かを理解することとは、「その知識が対応する疑問とその問いに応じたかもしれない複数の知識と出会う可能性を失うこと」でもあります。

 例えば、プトレマイオスの精緻な天動説体系を苦労して理解した人は、他の見方で宇宙を理解することが難しくなるのです。

 私たちが理解することができる大抵の知識は一面的です。物事のある側面に注目することで、知識のブレイクスルーは生じることが多いので、このことは必然的です。そして、我々の持つ知識が一面的であるからこそ、その知識は、もともと予定されていなかった、その知識では応じられない疑問によって打ち破られます。「素人考え」との遭遇は、実はそうした機会の一つなのです。つまり、素人に論破されることは、あなたの無能ではなく、知識の不完全さと一面性を知ることのできる学習機会にほかなりません。

 もうほとんど不要かもしれませんが、説得力の方の質問にも、簡単にふれておきましょう。

 説得力を持って話す秘訣は、聞き手のボキャブラリー(と前提知識)だけを用いて、自説を説明することです。言うは易し行うは難しですが、当然ながら聞き手を理解することが前提となります。もっとひどいことを言えば、相手が信じていることだけを話せば、簡単に説得力は得られます。