「日本は世界一の超高齢社会」解決のヒントはM字カーブにあり

【地理とは「地球上の理(ことわり)」である】という指針にのっとって現代世界の疑問を解き明かし、ベストセラーとなった『経済は地理から学べ!』。著者は、代々木ゼミナールで「東大地理」を教える実力派、宮路秀作氏。また、日本地理学会企画専門委員会の委員として、大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」に参加し、精力的に活動している。2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定し、地理にスポットライトが当たっている。今、ビジネスパーソンが地理を学ぶべき理由に切り込んだ。(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/疋田千里)

4人に1人が65歳以上。
日本はどうなる…?

──『経済は地理から学べ!』のなかには、「土地も資源もない日本が、なぜ経済大国になれたのか」というお話があります。そこでは、「日本の強みは人口と教育水準である」と語られています。現在、少子高齢化を迎えた日本は、今後どうやって国力を高めていけばいいのでしょうか。

宮路秀作(以下、宮路):日本の少子高齢化は深刻です。65歳以上の人口割合は28.00%(2019年)。残念ながら、これは世界で最も高い割合です。また、15歳未満の人口割合は12.57%(2019年)と、世界ワースト3です(日本より低いのは、シンガポール、香港のみ)。

──ここまで少子高齢化が進んでいるんですね…。

宮路:ただ、少子高齢化が進んでいるのは日本だけでなく先進国も同様で、先進国は今以上に少子高齢化が進みますし、途上国ですら出生率は減り始めています。

 合計特殊出生率を見てみましょうか。合計特殊出生率とは「女性が15~49歳の間に産む子どもの数」のことです。人口置換水準、すなわち「人口が増えも、減りもしない状態」は合計特殊出生率が「2.1程度」だとされています。

 よく授業で「ブラジルの合計特殊出生率はどのくらいだと思うか?」という質問をします。生徒たちに口々に「2.5」とか「3.6」と言うんです。なかには「4」や「5」と言う子もいます。印象として、ブラジルは人口がどんどん増えているイメージがあるのでしょう。

 でも実際には「1.72」。ブラジルが「2.1」を下回ったのは16年も前のことなんです。人口が増えているイメージのあるブラジルでも、じつは30年以上も前から合計特殊出生率は減少傾向にあるんです。

──それは意外ですね!

宮路:だからこそ、イメージで捉えるのではなく、きちんとしたデータに向き合っていくことが大事なんです。

 日本の話に戻しますと、日本の合計特殊出生率は「1.36」しかありません。この数字を見るときに、人口が減っていくことより、年齢構成がいびつになっていくことが問題だと私は捉えています。

 人口が1億2500万から1億人になったとしても、人口減少もさることながら、そのときの高齢者割合がたとえば半分になっているかもしれない。そうなることが問題だと感じています。繰り返しますが、日本の老年人口(65歳以上の人口)割合は28%。これは世界で最も高い割合です(2019年)。

 よく少子高齢化といいますけれど、「少子化対策」と「高齢者対策」はまったく別ものです。

 どうしても日本では高齢者に対する行政、いわゆる高齢者対策が手厚くなりがちです。しかし、高齢者割合を増やさないためにも、少子化対策がもっとも重要です。ちなみに、日本において「15歳未満」と「65歳以上」の人の割合が逆転したのは96~97年くらいなんです。

──「高齢化が進んでから時間が経っている」とは思っていましたが、そんなに前なんですね。

宮路:そうなんですよ。25年も前から、すでに年齢構成割合がいびつになり始めていたんです。何も改善していないどころか、どんどん悪化しています。「25年もの間、政府や行政は何をやってきたんだ!?」と普通なら思いますよね。

 なんとなくではなく、事実や統計データに正しく向き合って、きちんと対策を取っていくことは本当に必要だと思っています。