三井物産人材開発株式会社・代表取締役社長の亀山巌さんPHOTO:K.SUGASAWA

三井物産人材開発株式会社は、「人の三井」を支える人材開発のプロフェッショナル集団だ。三井物産株式会社とグループ会社を対象に年間500もの研修を行う同社の組織開発・人材開発は「サイエンスと思いやり」を意識しているという。自らの体験から「経験学習」の重要性を説く、同社・代表取締役社長の亀山巌氏と、幅広く研修の企画運営に携わる人材開発部長の佐々木孝仁氏に、サイエンスで「人の成長を支援する」方法を聞く。(聞き手/永田正樹、構成・文/棚澤明子、撮影/菅沢健治)

データやノウハウを蓄積し、サイエンスで人の成長を支援

永田  御社は三井物産本社とグループ会社を対象に、100種類もの研修を年間を通じて約500回行っているそうですね。まずは、御社の事業内容について、代表取締役社長の亀山さんよりお聞かせください。

亀山 当社は三井物産の100%子会社で、三井物産とグループ会社の社員のみを対象にした人材開発・組織開発の専門組織です。他社に向けた営業は一切していません。

永田  人材育成を行う部隊を三井物産の本社内に置かずに、社外に切り出したイメージですね。それには、どのような目的があるのですか?

亀山 目的は2つあります。1つめは、人材開発の専門性を担保することです。三井物産は脈々と受け継がれてきた「人材主義」という言葉を大切にしており、人材の育成については常に一段高いレベルの施策を求めてきました。とはいえ、ジョブローテーションで(本社やグループ会社の)育成担当者が3〜4年単位で他部門に異動となったり、人事部門のなかでも、例えば、担当が人材育成から労務などに変わったりなどすると、専門的な知見が蓄積されにくいです。そこで、人材育成(の機能)を社外に切り出すことによって、人材開発の専門性を指向する人材を採用し、その専門人材と組織が育成に関する知見をより長期間にわたり蓄積していくことを目指したのです。2つめは、連結経営の時代を見据えた、グループ会社に向けての人材開発の強化ですね。独立企業にすることによって、三井物産だけでなく、国内外のグループ会社に対する機能提供を実現させたかったのです。

永田  2017年に亀山さんが現職に就任されてからは、「サイエンスと思いやりで人の成長を支援する」ということを掲げてこられました。実際、どのようなことをされてきたのですか?

亀山  以前から、当社は研修企画に人材育成に関する理論やトレンドを積極的に取り入れてきました。私はそれをさらに強化しようと、人材開発に関するサイエンスの知見がいちばん貯まっていそうなところ、つまり、研究機関である大学を訪ねました。大学との連携や共同研究を通して、研究機関に蓄積されている人材開発関連のデータやノウハウを拝借し、それを私たちの仕事に生かそうと思ったのです。

永田 なるほど。「研究の成果を仕事に取り入れる」というのは興味深いですね。

亀山 ポイントは、研究成果を実践活用することと、私たちが研修を通して蓄積してきたデータを研究材料として提供する、ということです。そうすることで、私たちが勉強するだけでなく、研究にも寄与し、さらにそこから当社に紐付いた成果が出てきやすくなります。その成果をまた、自分たちの研修に戻していくのです。大学との共同研究によって、自分たちだけでPDCAを回すよりも、一段大きなサイクルが力強く回っている実感があります。外部の専門的な知見を取り込み、一緒に活動することが、当社の専門性を一段高めるためのブースターになっています。

三井物産人材開発株式会社 代表取締役社長 亀山巌さん

三井物産人材開発株式会社
代表取締役社長 亀山巌 Iwao Kameyama

北海道大学経済学部卒業。1999年に三井物産株式会社入社。ICT事業本部に所属し、主に米国IT企業との日本事業立ち上げなどを担当。米国駐在経験を経て、中国を中心にアジアでのエレクトロニクス事業、省エネIT事業などを推進。2013年より人事総務部で採用・研修等の人材開発業務に従事。2017年より現職。関心領域は変容的学習論、成人発達理論。