ジョブズを教え、YouTube CEOを育てたゴッドマザーによる「世界一の教育法」Photo: Adobe Stock

シリコンバレーで最も有名な教師であり、グーグルはじめ一流企業の人事育成も担当しているというエスター・ウォジスキーの著書『TRICK──スティーブ・ジョブズを教えYouTube CEOを育てたシリコンバレーのゴッドマザーによる世界一の教育法』(文藝春秋)が話題だ。
教育者としても高い実績を誇るエスターだが、その子どもたちも、長女がYouTube CEOとなり、次女がカリフォルニア大学医学部教授、三女がバイオベンチャー創業CEOとなるなど、大きな活躍をしている。
今回、著書『子育てベスト100──「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』(ダイヤモンド社)がベストセラーとなっている加藤紀子氏が、『TRICK』の翻訳者、関美和氏に話を聞いた。シリコンバレーの「ゴッドマザー」、エスター・ウォジスキーの教育法、子育ての秘密とは?(構成:小川晶子)

世界一の教育法「TRICK」

加藤紀子氏(以下、加藤) 関さんが翻訳された本は『ファクトフルネス』(日経BP)はじめ次々にベストセラーになっていますが、今日お話をうかがいたい『TRICK』も素晴らしい本ですね。子育て世代の人だけでなく、多くの社会人から反響があると聞いています。まず、簡単に『TRICK』の内容をご紹介いただけますか?

関美和氏(以下、関) ありがとうございます。著者のエスター・ウォジスキーさんは、シリコンバレーのゴッドマザーと呼ばれている有名な教師です。エスターさんには、スーザンさん、ジャネットさん、アンさんという3人の娘さんがいらっしゃいますが、3人とも起業家精神にあふれた素晴らしい方たちなんです。

 スーザンさんはYouTube CEO、次女のジャネットさんはカリフォルニア大学医学部准教授、三女のアンさんはバイオベンチャー23andMeの創業CEOをされています。エスターさんがどうやって子育てをされてきたのかを、教師の経験も重ね合わせながらひも解いているのがこの本です。

「TRICK」とは、子育てや教育で立ち返りたい価値観を、覚えやすく頭文字を取ってまとめたものです。

 T=Trust(信頼)、R=Respect(尊重)、I=Independence(自立)、C=Collaboration(協力)、K=Kindness(優しさ)という5つの原則ですね。これを使うとみんな幸せになれるよ、という内容です。

加藤 『子育てベスト100』は、最新の脳科学や心理学の研究などに基づいてメソッドをまとめているのですが、私は『TRICK』を読んで、自分が書いた内容の答え合わせをさせてもらったような感じがしました。

 エスターさんの教育法を知って、「こうして、トータルとして現場で実践されている人がいたんだ!」と嬉しくなりました。理想が具体化されたのを見る思いでした。

シリコンバレーのゴッドマザー

加藤 エスターさんはスティーブ・ジョブズとも親交があったそうですね。

 エスターさんはパロアルトの公立高校でジャーナリズムのプログラムを教えていたんです。そこに、スティーブ・ジョブズの娘さんも参加していました。エスターさんのプログラムはとても人気があり、そこから名だたる作家やジャーナリストが育っていっています。

 学生たちと学校新聞を発行したりもしているのですが、発行日には朝から大忙しでてんやわんや。そんなとき、オーガニックの体にいい夕食をスティーブ・ジョブズが差し入れてくれたなんていうエピソードがあります。

 ジョブズ自身、エスターさんの授業に参加して聞いていたという話もありますし、どこか通じ合うところがあったのでしょう。

加藤 なるほど。イノベーティブな人たちが多く住んでいるパロアルトという地域の特性もあったのでしょうか。そして、授業が評判になって濃い人脈ができていった。

 パロアルトのコミュニティ自体は小さいんだと思うんです。スタンフォードのキャンパスのまわりに、起業家も投資家もみんな住んでいるっていうような感じです。そこに1990年代からグーグルができてフェイスブックができて、パロアルトのコミュニティ自体がブームに乗っているような時代に、エスターさんは教師をされていたんです。

加藤 面白いですね。長女のスーザンさんが最初に買った家のガレージでグーグルが創業されたというのもすごい話です。グーグル創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンがスーザンさんの家のガレージにコンピューターを何十台も置いて作業していたんですよね。そして、スーザンさんもグーグルに入社し、のちにYouTubeを買収してYouTubeのCEOになったという……。映画のようなストーリーです。

 セルゲイ・ブリンと三女のアンさんが結婚して、離婚はしているのですが、家族ぐるみでお付き合いをされています。イーロン・マスクのお母さんとエスターさんも意気投合していて、お友だち付き合いをしているそうです。イーロン・マスクのお母さんも有名な方なんですよ。エスターさんの子育てと共通点が多いらしく、意気投合したようです。

加藤 すごい名前がどんどん出てきますね。エスターさんには、Forbesの記事「子どもや部下を成功者にさせる、ゴッドマザーの『教育5カ条』」のときに画面越しにお会いしましたが、思った通り気さくでいい方でした。セレブっぽくないというか、カジュアルで「近所のおばあちゃん」といった雰囲気で。

 背が高くてきれいな方ですが、昔はモデルもされていたようですね。一方で、取材の日もカジュアルなジャージを着て、「このあと犬の散歩に行くの」なんて言っていました。お金があっても華美にすることなく、質素倹約はエスターさんのご家庭の柱の一つだという気がします。娘さんたちもよくメディアに出ていらっしゃいますが、地に足の着いた経営者といった雰囲気です。

>>対談次回「『ズバ抜けてすごい子』の親がしている3大習慣──「シリコンバレー最強の親」の子育てメソッド」に続く