林真理子さんが『小説8050』を書いた今、ひきこもる人に伝えたいことPhoto by Masato Kato

 ひきこもる長男とその家族の姿を描いた作家・林真理子さんの新刊『小説8050』(新潮社)が発売され、話題になっている。「ひきこもり」や、80代の親がひきこもり状態にある50代の子の生活を支える「8050問題」、さらに「学校のいじめ」をテーマとして扱い、発売前に重版が決定するなど大反響。発行部数は6月23日現在で累計11万7000部を超えた。

 物語は、小さな商店街で歯科医院を営む主人公の大澤正樹と、中学2年生から7年間ひきこもってきた長男の翔太との父子関係を軸に描かれる。正樹と妻の節子は、長女で翔太の姉である由衣の結婚話をきっかけに、ひきこもる息子を外に出そうと公的機関などに相談したり、引き出し業者に依頼したりしてきたが、翔太の気持ちをもっと知ろうと決断し、彼が口にした「復讐」という言葉を手掛かりに動き出す。

 インタビュー後編では、著者の林真理子さんに『小説8050』を書いた今、ひきこもる人やその家族に伝えたいことや、新作に対する熱い思いの丈などを聞いた。(ジャーナリスト 池上正樹)

>>インタビュー前編「林真理子さんが明かす、話題の新作『小説8050』で“ひきこもり”を描いた理由」から読む

林真理子さんが『小説8050』の執筆を経て
ひきこもる人やその家族に伝えたいこと

――小説の主人公である正樹さんと妻の節子さんの姿は、子どもがひきこもっていることで悩んでいる全国の家族には自分事のように受け取られたと思います。親世代の多くは、働くことが当たり前という価値観を植え込まれてきているので、ひきこもっている翔太くんへの接し方も共感できるところとイライラさせられるところがあったと思います。

 そうですね。私は、『野心のすすめ』(林真理子著)の価値観をお父さんに持たせています。なので、働かない人間には何の意味もない、社会に貢献しない人間はダメだという価値観を押し付けるのですが、それは子どもにとっては、つらいことだろうなと思います。

『野心のすすめ』を書いてから7~8年たちますが、あれから世の中の空気も変わったと感じます。新型コロナウイルスの登場もあって、『あなたは、そのままでいい』と肯定し合う世の中になった。弱い人たちも増えているので、『あなたは、生きているだけですばらしい』という『大河の一滴』(五木寛之著)の言葉が繰り返されるようになりました。『野心のすすめ』がベストセラーになったのは、日本人にとって最後の活気の一つだったのかなと、ふと思ったりしています。