逃げ切りそうな日銀幹部へ送る、歴代FRB議長の金融緩和「落とし前」の美学6月18日に開催された金融政策決定会合後の記者会見を終え、会場を後にする日本銀行の黒田東彦総裁 Photo:gettyimages/Bloomberg

米連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和策の縮小に向けた議論を近く開始することを明示した。それとは対照的に、日本銀行は超緩和策の継続を決定している。現在の日銀幹部は皆、その在任期間中に同政策の出口を見ることはないと内心思っているだろう。そんな彼らに伝えたいのが、時の政権との全面対決すらいとわずに自ら始めた金融緩和策の「落とし前」を任期中につけて去っていった、歴代FRB議長たちの美学だ。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

FRBがテーパリングへ動きだす
日銀は超緩和策の継続を決定

 米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、次回7月会合でのテーパリング(量的緩和策=QEの縮小)議論の本格開始を明示した。

 米カンザスシティ連邦準備銀行が毎年8月下旬に開催する経済政策シンポジウム「ジャクソンホール会議」か9月のFOMC会合でその手法(証券購入減額のスピード等)が公表され、11月会合でテーパリング開始が決定されるのではないかと推測される。

 またFRBは、昨年の新型コロナウイルス発の危機下で市場から購入した社債上場投資信託(ETF)を6月7日から売却し始めている。同じくコロナ危機対応としてマネー・マーケット・ファンド(MMF)、コマーシャルペーパー(CP、短期社債)、社債、地方債の流動性を支えるために昨年実施したプログラムは、いずれも出口政策が完了。残高はすでにゼロになっている。中小企業等の給与を金融機関経由で支える貸出制度も7月で終了することになった。全体的には非常にゆっくりとしたペースではあるが、FRBは政策の正常化を進め始めている。

 一方、それとは対照的に、日本銀行は6月の金融政策決定会合で、2%のインフレ目標を達成するための超緩和策と「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」の継続を決定した。

 政策委員会委員は「引き続き粘り強く金融緩和を継続することが重要」との認識を示している(同会合「主な意見」より)。下図のように経済規模(名目国内総生産〈GDP〉)比で見た日銀の資産は圧倒的な世界一にあるが、今後もさらに拡大していくことになる。

 特にインフレ目標実現に向けた緩和策は、いつ終えられるのか、黒田東彦総裁を含む政策委員の誰も見通すことができず、「粘り強く続ける」と言い続けるしかない状況にある。

 しかし、白川方明・前日銀総裁が英貴族院の公聴会で証言していたように、超低金利の長期化自体が日本の潜在成長率や自然利子率をかえって押し下げてきたのであれば、今の政策を粘り強く続けても、良い意味でのインフレ率2%の達成はいつまでも実現しない恐れがある(白川前総裁の証言内容の詳細は、『前日銀総裁・白川方明氏が英議会で証言した、金融緩和「超長期化」の末路』を参照)。

 問題なのは、日銀政策委員の任期は5年(黒田総裁のように再任もあるが例外的)、政策を支える日銀理事の任期は4年という点だ。現在の日銀幹部は皆その在任期間中に、自分たちが大胆に実施してきた政策の出口を見ることはないと内心思っているだろう。だとすると、その大胆な政策が先行き混乱を招いたとき、一体誰が責任をとれるのか?という問題が発生する。