38万部超のベストセラー『餃子屋と高級フレンチ』シリーズでおなじみの著者・林總氏の最新刊『たった10日で決算書がプロ並みに読めるようになる! 会計の教室』がダイヤモンド社から発売。本連載では、同書の中から抜粋して決算書を読み解くために必要な基本の知識をお伝えしてきました。今回も特別編として書下ろしの記事を掲載します。登場人物は、これまでと同じく林教授と川村カノンの2人。注目企業の決算書はどうなっているのか? 注目企業の会計のカラクリなどについて解き明かしていきます。しばしお付き合いください。好評連載のバックナンバーこちらからどうぞ!

この30年間、OECD加盟国と比べて<br />日本の成長率が飛び抜けて低い<br />たった1つの理由Photo: Adobe Stock

日本企業のキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)は、
長すぎる

カノン 先生、日本企業のキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)って何日位ですか?

林教授 製造業に限ると、製造業197社の3月期平均CCCは、84.6日で前期と比べて8.1日伸びたそうだ(2020年7月9日付 日本経済新聞)。

田端 結構長いんですね。CCCが伸びたのは資金繰りが悪化したということですか?

林教授 そう、このコロナ禍だからね。特に在庫日数は7.8日も長くなったそうだ。

田端 短いほど資金の余裕が出るのだから、経営者が怠慢で在庫を減らそうとしなかったんでしょうね。

林教授 在庫が増える理由は訳があるんだよ。コロナ禍でモノが売れないのも理由の一つだ。だが、コロナ禍でなくても在庫は増える。営業部門の責任者は、売り損じを避けたいから製品在庫をたくさん持とうとする。だから、放っておけば在庫は自然に増える。

田端 でも、売上が増えれば在庫も増えるのではありませんか?

林教授 在庫を抑えても、売上を増やすことはできる。

カノン 在庫の回転を速めて、売上を増やすべきですよね。

林教授 その通り。しかし、そう考えることができる人たちは意外といないんだよ。最近、CCCの知識が広まったことで、経営者や管理者の意識が変わり出した。お金の仮の姿である在庫の流通速度を速めれば、在庫が減少して、売上が増えて、しかも利益が増えることを気づかせてくれたからだ。

田端 簿記を勉強していると、在庫が増えると利益が増えるように考えてしまいますけど、それは間違いなんですね。

林教授 その通り。CCCが短くなると、少ない運転資金で多くの取引ができるようになる。その結果として利益が増える。だから企業はCCCを短くしようと努力しているんだ。こんな記事が新聞に載っていた。

この30年間、OECD加盟国と比べて<br />日本の成長率が飛び抜けて低い<br />たった1つの理由
拡大画像表示 2020年7月9日付 日本経済新聞

田端 上位6社は、20日以上もCCCを短縮化したんですね。

林教授 首位のディスコを例にとれば「半導体・電子部品の需要が旺盛で、加工する製造装置の出荷が伸びて在庫の回転率が高まった」ことで在庫のCCCが短くなった。

さらに、売上高の計上を出荷時から顧客が検収時に変更したことも、売掛金循環日数の短縮化に貢献した。売上の計上のタイミングを遅らせただけだけどね。とはいえ、「営業社員に検収承認をスムーズに得ようという意識」が高まり、結果として売掛金の代金回収を早めたそうだ。