“頭がいい人”があえて「バカ者」の意見を聞く納得の理由Photo: Adobe Stock

効率よく仕事を進めたい、アイデアがパッとひらめくようになりたい、うまい受け答えができるようになりたい…。身近にある「こうなりたい」の近道は、ずばり「考え方のコツ」を手に入れることだ。
『グロービス流「あの人、頭がいい!」と思われる「考え方」のコツ33』では、MBAのクラス、学者、コンサルタントなど、「考えることにこだわっている」人たちが日常で使っている、確実に生産性が上がる考え方のコツだけを紹介している。今回は本書から「前提を変えて考えるコツ」を特別に公開する。(イラスト:fancomi)

“頭がいい人”があえて「バカ者」の意見を聞く納得の理由

人間はいつの間にか
暗黙の前提を置いてしまう生き物

 一般論でいえば「常識」というものは非常に便利です。たとえば、就活学生のリクルートスーツは黒か紺というケースが多いでしょう。筆者が学生の頃はもっとバリエーションがあったように記憶していますが、いつの間にか黒と紺に集約されていきました。「それに従っておけば無難」という意識が浸透すると、そこから外れて考えることがどんどん難しくなっていくのです。

 一方で、余計なことを考えずに済み、思考をショートカットできるというのは、確かに常識というもののメリットといえるでしょう。冒頭の扇風機の例も、おそらく各メーカーの扇風機の製品開発者は、「扇風機とは羽根を回して風を起こすもの」という常識にとらわれていたと思われます。そうすれば確実に風は起こせますし、作るのも容易だからです。そのうえで何か差別化できないかを考えていたといえます。そこにダイソンは羽根なし扇風機というイノベーティブな製品を持ち込み(価格は高いですが)、一部の人に強く支持されたのです。

 皆が思考をショートカットし、「これが当たり前」と思い込んでいる部分でその常識を覆すようなアイデアが出せれば、非常に大きな差別化につながることもあるのです。常識を疑うこの方法論は、クリエイティブな発想を促す水平思考の要素の一つともされ、強く推奨されています。

若者、よそ者、バカ者の声を聞く

 町おこしなどをする場合、斬新なアイデアを生み出すうえでいいとされるのは、若者、よそ者、バカ者の声を聞くことです。これは一般的にも当てはまります。

 若者はその若さゆえに、しきたりやしがらみに染まりきっておらず、自由な発想からアイデアを出せる可能性が高まります。

 よそ者は、部外者ですから、その組織や地域の常識に染まりきっていません。ビジネスであれば、社外の人間や外国人などは、通常の日本人社員が染まりきっている常識にまだ毒されていないのです。

 バカ者は少し表現は悪いですが、そもそも常識から多少外れた発想をするような人です。時には後ろ指をさされることもあるかもしれませんが、はまると良いアイデアをもたらしてくれることがあります。コミック「天才バカボン」のバカボンのパパのような人材を想定するといいでしょう。

 こうした人をミーティングに招いて議論したり、あるいはヒアリングなどをしてみると、「常識人」には一見ありえない、びっくりする意見が出てくることがあります。それをいきなり否定するのではなく、まずは真摯に聞いてみるといいでしょう。筆者が10代の人間と話をしていたとき、「なぜ多くの雑誌や本は縦書きなのか? 特に文庫は縦書きばかりだ」と言われたことがあります。「その方が読みやすいでしょ」と私は答えたのですが、その若者は「自分たちはスマホで文章を読むことに慣れているから、横書きの方がいいんだけど」と答えました。これは筆者のような50代の人間には思いつかない発想です。今のところ、書籍や雑誌はまだ縦書きが多いですが、古い人間が常識を捨て、横書きに変えていくことにはそれなりの価値がありそうです。

あえて否定形を作ってみる

 何か「お題」が決まっている場合、あるカテゴリーの新製品を出さなくてはいけない場合など、その製品の通常の属性を書き出し、それを否定できないか考えてみるという発想法があります。ここでは例としてカレーを考えてみましょう。カレーについて、「カレーとは〇〇である」という文章をいくつか書いてみましょう。以下のような感じです。

カレーとは辛いものだ
カレーは黄色系の色をしている
カレーは昼食か夕食に食べる
カレーはご飯かナンにかけて食べる
カレーは肉や野菜を混ぜる
カレーはスプーンで食べる
カレーはカロリーが高い
カレーは料理の素人でも作りやすい

 これらをあえて否定した新製品ができないかを考えてみるのです。たとえば、「カレーは昼食か夕食に食べる」という常識を覆した「朝カレー」が発売されたことがあります。主流にはまだなっていませんが、新しい食べ方を提案できたらもっと市場を大きくできるかもしれません。あるいは、「カレーはご飯かナンにかけて食べる」という常識を打ち破って、それ単独で食べられたり、他の食べ物、たとえば、シリアルと相性の良いカレーなどを開発できないか考えてみるのも面白いかもしれません。

 先述した書籍や雑誌についていえば、最近「オーディオブック」が流行っています。これは「本とは読むものである」という常識を打ち破り、「本を聞く」ようにした製品と考えることもできます。すでに点字の本はありますが、技術が進化すれば、それ以外の方法論で「触覚で内容を読み取る」ことができる本も登場するかもしれません。コストが下がれば、VR(仮想現実)で書籍や雑誌の中身を体感するようなサービスも需要があるのではないでしょうか。

「常識破り」と「常識破り」を
掛け算してつなげてみる

 よりエッジの効いた常識破りの何かを発想する方法論として、常識破りのものを複数組み合わせてみるという方法があります。何か異質のものや事柄をつなげたり、一見結びつきにくいものを組み合わせるだけで新しいコンセプトやものが生まれることは多いものですが(イノベーションがもともと「新結合」の意味です)、それをさらに「過激」にしてみるわけです。

 例として、アイドルの常識を破ったAKB48(アイドルは遠い存在で、グループでもせいぜい数人という常識を破った)とコンビニコーヒー(低価格で美味しいコーヒーは飲めないという常識を破った)を掛け算してみましょう。そうすると、毎日日替わりで個性的な味のコーヒーを数十種類用意し、そこそこの値段で提供するといったアイデアが考えられます。現時点ではオペレーションの問題で実現は難しいかもしれませんが、そこで発想を止めるのではなく、どうすればそれを実現できるか考えてみると思わぬブレークスルーが生まれる可能性があります。

 回転寿司(これも当初はイノベーティブなサービスでした)と「俺のイタリアン」を掛け算すると、何かしらの高級食材(と一般的に思われているもの)がコンベアでグルグル回ってきて、立ち食いでさっと済ませられるといった飲食店のアイデアが生まれるかもしれません。これも実現に向けての工夫は必要ですが、やりようによっては面白いのではないでしょうか。ウェブ上で「常識を打ち破った商品」で検索すればたくさんのものが引っ掛かりますので、それらを参考にするのは、頭の活性化にもつながります。頭の体操的に考えてみるといいでしょう。

★効果的なシーン

競合が思いつかないようなユニークな製品・サービスを考案する

★一目置かれるためのポイント
他人の常識に染まっていない頭を借りる

②属性を言語化し、否定してみる
③掛け算でつなげて考える

(本記事は『グロービス流「あの人、頭がいい!」と思われる「考え方」のコツ33』〔グロービス著、嶋田毅 執筆〕の抜粋です)