ECFAで激変した中台関係

 地域貿易協定は域内の関税を撤廃し、さまざまな分野での経済協力を進めていく協定である。その意味では、経済分野での協力を目指したものである。しかし、現実的には多くの地域貿易協定は政治外交的な意図を含んだものであり、経済を超えて政治や社会などに幅広い影響を及ぼす存在である。

 日本が取り組んでいるTPP(環太平洋経済連携協定)もその例外ではない。米国と中国というアジア太平洋地域の二つの大国のこの地域での主導権争い、そしてそのなかにおける日本の立ち位置とも深い関係を持っている。経済問題に限定したナイーブな捉え方をしてはいけない。

 地域貿易協定が政治的な意味を強く持っていることは、いろいろな例で確認することができる。以下でいくつか取り上げてみたい。

 最初は台湾と中国の関係である。

 5年ほど前、台湾の総統が民進党の陳水扁氏から国民党の馬英九氏に代わった。陳総統の時代、台湾は中国からの独立を打ち出す姿勢を見せていた。台湾は中国の一部であるという立場の中国にとって、これは容認できることではない。中国からはさまざまな締め付けが行われ、中台関係は緊張していた。

 民進党を選挙で破った国民党の馬英九総統は、こうした中台関係の緊張をほぐす手法として、中国との経済連携であるECFA(経済協力枠組み協定)の締結に動いた。域内の関税を撤廃するという自由貿易協定ではないが、ECFAによって中国と台湾の経済交流は大幅に拡大することになる。

 象徴的な事例として、台湾と中国大陸の航空路線がある。民進党政権の時代には、台湾と中国大陸を結ぶ直行便は一便もなかった。当時から、多くの台湾のビジネスマンが中国大陸で事業を展開していたが、台湾との行き来は香港経由、沖縄経由、成田経由などであったという。