職場における多様性や心理的安全性が重要視されるようになったいま、強大な権力でメンバーをけん引するトップダウン型ではなく、コミュニケーションが取りやすく風通しのいいフラット型の組織作りに取り組む企業が増えている。
しかし、どんなにフラットな組織であっても、課題解決や大きな意思決定の場では「決断する」というマネジメントの力が必要不可欠なことに変わりはない。では、マネジメントとしての力を行使しながらも、時代の流れに適応した新しいリーダーシップとは、どんなものになっていくのだろうか。
そこで今回は、ハーバード・ビジネス・レビューEIシリーズの最新刊『リーダーの持つ力』の日本版オリジナル解説を著した独立研究者・山口周氏と、ゴールドマン・サックス証券の元副会長・キャシー松井氏が、組織のマネジメントや女性の活躍促進について語った、ダイヤモンド社「The Salon」のイベントを全2回のダイジェスト版でお届けする。(構成/根本隼)

どの組織でも共通する「嫌われがちなリーダー」の特徴とは? Photo:Adobe Stock

「雰囲気作り」を意識しないリーダーは嫌われる

どの組織でも共通する「嫌われがちなリーダー」の特徴とは? 山口周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ビジネスの未来』『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『武器になる哲学』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。 株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。

山口周(以下、山口) キャシーさんはゴールドマン・サックス(以下、GS)でパートナーまで登りつめていらっしゃるので、パワーを扱う難しさは実感されていると思いますが、その使い方で気をつけていた点はありますか?

キャシー松井(以下、キャシー) ささいな例ですが、パートナーに昇進した際に「どんなに暗い気持ちだったり、寝不足だったりしても、出社時はとにかく笑顔で『おはようございます!』と言いなさい」と周りからアドバイスされましたね。

 最初は「なんだそれ」と思ったのですが、その日のエネルギーレベルを朝から高めて、「一緒に頑張ろう」というポジティブな雰囲気を作ることの重要性に、後々気づきました。

山口 自分の持っている影響力の大きさをきちんと認識してください、というコーチングですね。

 私がやっているリーダーシップのワークショップの冒頭では、キャリアのベストボスとワーストボスを参加者に挙げてもらうエクササイズをするのですが、どの組織でも共通するワーストボスの特徴が、「常に不機嫌な人」です。まさに、「雰囲気作り」を自覚的に行なわない人は、リーダーシップも発揮できないということを証明していると思います。

キャシー 上司と部下の心理的距離が離れるほど、コミュニケーションも困難になります。危機的な状況に陥っても、上司を怖れて報告できないような関係はすごくリスキーですからね。

プレッシャーを部下に転嫁しない方法とは?

どの組織でも共通する「嫌われがちなリーダー」の特徴とは? キャシー松井(きゃしー・まつい)
ゴールドマン・サックス証券株式会社 元副会長、グローバル・マクロ調査部アジア部門統括、チーフ日本株ストラテジスト。過去数回、インスティチューショナル インベスターズ アナリストランキングにて日本株式投資戦略部門で1位を獲得。ウーマノミクスのテーマにて、2007年にウォールストリートジャーナルの「10 Women to Watch in Asia」の一人に選ばれた。 2014年にはBloomberg Marketsの「50 Most Influential 」の一人に選ばれた。 過去には、政府関係の女性の潜在力促進・向上改革に向けた会合、ワーキンググループなどに参加した。現在、アジア女子大学支援基金財団の理事会メンバー、米日カウンシル議会理事会長、一般財団法人ファーストリテイリンング財団の理事、外交問題評議会メンバー、アジア自然保護協会メンバー、経済同友会メンバー、日本癌学会の乳癌基金のアドバイザリーメンバーの一員でもある。 ハーバード大学、ジョンズ・ホプキンズ大学院卒業(SAIS)。

山口 GSは、世の中で最もプレッシャーがきつい職場の1つだと思います。自分にプレッシャーがかかると、部下にもプレッシャーをかけたくなりがちですが、プレッシャーの連鎖を作ってしまうと、組織全体が疲弊して機能不全になってしまいます。その点について、普段から配慮していたことはありますか?

キャシー 金融業界のような競争の激しい環境で「プレッシャーの連鎖」を生まないためには、「自分がコントロール不能なことは、心配してもしょうがない」と割り切って考えることが大切です。世界情勢やマーケットの状況は、自分の力で制御するのは不可能なので、そのことに精神的エネルギーを費やしても無意味です。

 そうではなく、例えば市場環境が悪化し、職場の雰囲気も悪くなったときには、元気な声で仲間を奮い立たせるのも1つの手ですし、自分のポケットマネーで「ピザでも食べに行きましょう」と声をかけて気分転換の場を作るのも効果的でしょうね。

山口 周囲に厳しいことを言ったり怒鳴り散らしたりしても、組織の雰囲気が悪くなるだけで、パフォーマンス向上にはつながらないということは冷静に考えれば分かるはずです。しかし、その点を理解していても、いざ自分が厳しいプレッシャーにさらされると、感情をコントロールするのは難しいですよね。