突然、告げられた進行がん。そこから、東大病院、がんセンターと渡り歩き、ほかにも多くの名医に話を聞きながら、自分に合った治療を探し求めていくがん治療ノンフィクション『ドキュメントがん治療選択』。本書の連動するこの連載では、独自の取材を重ねてがんを克服した著者の金田信一郎氏が、同じくがんを克服した各界のキーパーソンに取材。今回登場するのは、悪性リンパ腫から復活したアナウンサーの笠井信輔さん。笠井さんは「あるデータ」を重視して治療を受ける病院を選んだそう。(聞き手は金田信一郎氏)

■笠井アナの「がん治療選択」01回目▶「笠井信輔アナ、悪性リンパ腫から復活「昭和の価値観捨てて休む勇気を」
■笠井アナの「がん治療選択」02回目▶「笠井信輔アナの“しくじり”告白!「がん罹患、なぜ備えておかなかったのか」」

■笠井アナの「がん治療選択」03回目▶「笠井信輔アナ流、怪しいがん治療の見分け方「ネットで調べすぎてはダメ!」」

悪性リンパ腫を克服した笠井信輔アナが病院選びで重視したあるデータ会社を辞めて独立した直後に、悪性リンパ腫になったアナウンサーの笠井信輔氏。著書『生きる力 引き算の縁と足し算の縁』では当時の経験を赤裸々に語っている。

――笠井さんはようやく3つ目の病院で病名が分かり、躊躇したものの奥さまや医師の後押しもあってセカンドオピニオンを受けることを決意しましたよね。その後、結局セカンドオピニオンを受けた4つ目の病院で治療を受けることになったようですが、そこまでの流れはスムーズだったのでしょうか。

笠井信輔氏(以下、笠井) 血液のがんに詳しい先生に3つの病院を教えていただき、その中の1つにセカンドオピニンをお願いしようと思って、連絡したんです。しかし、お願いした病院には最初、「忙しいから見ることはできません」と言われて。それで、朝から並んだんです。

 例えば、胃がんを例にあげると、データを調べたら、5年生存率が3割の病院から8割の病院まで、全然違うんです。これは、公的機関が発表してる数字です。一般の人でも見ることができるんですが、コツは必要ですね。

――私も検索して、参考にしました。やっぱり病院によって生存率は大きく変わりますよね。

笠井 もちろん、重症の患者さんだけを受け入れる病院もあるから、そうすると生存率が上がりません。この辺りは、正しい判断能力が必要になりますよね。ただ、ぱっと見て、ここかなという判断もつく。結局、私の場合も、悪性リンパ腫をたくさん診ている病院はどこですかという観点から選びました。特に希少がんの場合は、完全に「ハイボリュームセンター」に行くべきだというのは、アメリカなどでは常識のようですね。

 とにかく難しいがんになったら、同じような症例を多く診ている「ハイボリュームセンター」に行くこと。腹腔鏡手術だって、年に1~2回しかしていない先生もいる一方で、毎日のように手術をしている先生もいる。それはやっぱり圧倒的にスキルは異なるはずです。

悪性リンパ腫を克服した笠井信輔アナが病院選びで重視したあるデータ笠井アナは自身のブログ「笠井TIMES 人生プラマイゼロがちょうどいい」でも闘病の様子を飾らず、率直に、語ってきた。写真は入院中の2020年1月の様子。

――私もこれまで取材をしてきたのと同じように調べ抜いて、データをどう読むか、自分で判断していました。病院ごとに、このがんのこのステージだと、5年生存率はどのくらいか。自分が今いる病院と行きたいと病院で、手術件数はどのくらい違うのか、先生の頭数で割って、1人当たりどれぐらいの手術件数があるのか。また手術後の患者の勉強会を開いているか、などを調べていきました。これらのデータを基準にすれば、あまり行くべき病院を間違えないと思います。

笠井 難しいのは、それが出来る人と出来ない人がいるということですよね。その点、最近便利になっているのは、健康情報を提供するようなサービスもあるということです。

 多くは企業や個人単位で契約できるそうですが、自分や社員ががんになった時に、「そこから情報をもらってください」と紹介してくれる。そして相談すると「あなたのがんの場合、この地域ならここの病院ですよ」と教えてくれるそうです。そういったサービスを利用するのも一つの手でしょう。

 また保険システムも進んできて、いろんな保険会社で相談窓口を積極的に設けています。病気に併せて、3つぐらいオススメの病院を紹介してくれる保険会社もあるそうです。保険会社には、どの病院のどの先生だと治療成績がいいという情報も入ってきますからね。それを活用しているそうです。こうして世の中の仕組みが、良質な治療を受けられるようになるのはいいことですよね。
(2021年8月1日公開記事に続く)