転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。2021年4月に東京証券取引所マザーズに上場を果たしたビジョナルを、創業期から支えてきたのが、ベンチャーキャピタルのジャフコグループです。同社のパートナーを務める藤井淳史さんは、創業者の南壮一郎さんが「恩人」と呼ぶ人物の一人。「事業のスケールがとにかく大きかった」と語る藤井さんにビジョナルとの出会い、経営者としての南さんについて聞きました。

ジャフコ藤井淳史氏「ビズリーチが現代のスタートアップの土台をつくった」創業間もないころからビズリーチを支えたきたベンチャーキャピタル、ジャフコグループ。中でもパートナーの藤井淳史さんは、ビズリーチをよく知る人物の一人だ。

――ビズリーチ(現ビジョナル)の南壮一郎氏とは、どのような経緯で出会ったのですか?

藤井淳史さん(以下、藤井) 初めての出会いは2009年9月でした。ビズリーチ創業メンバーの一人である竹内(真・現ビジョナルCTO=最高技術責任者)さんと南さんにオフィスに来ていただいて。

 そのとき、私は同席していなかったのですが、後から面会した社員が「ものすごくエネルギッシュで勢いのある人だった」と言っていて。とにかく事業計画が抜群におもしろいと言って、当時あった面談プロセスをいくつか飛び越えて、いきなり役員に会ってもらおうという流れになったことを覚えています。

 私自身、南さんに対する印象は、とにかくユニークという言葉に尽きます。米国の大学を出て外資投資銀行に入り、その後、プロ野球球団の創業メンバーになるという経歴だけでもおもしろい。それなのにさらに事業意欲があり、その上、人間味があふれている。古き良き日本人らしさをまといながらも、生き方は外国人みたいな(笑)。滅多にいないタイプの人です。

――ビズリーチの事業に対する印象はどうでしたか?

藤井 覚えているのは、事業に対する考え方がとても整理されていたんですね。プレゼンテーションの内容も洗練されていました。

 今でこそ、スタートアップの起業家は名刺交換をしたら、挨拶もそこそこに「早速、ひと通り説明させていただきます」みたいにプレゼンを始める人が少なくないのですが、当時はまだ珍しかったですね。きれいなスライドが用意されていて、数字があって、役員の写真が並んで。今では当たり前のフォーマットを、当時から南さんは実践していた記憶があります。とにかく分かりやすく事業を説明してくれました。

 当時はリーマンショックもあって、人材業界が凍りついているような状態でしたから、ビズリーチの事業は大丈夫か、という声もありました。

 けれど、彼らはよく考えていて、まずハイクラス向けの人材に絞ると。そういう人たちは、どんな時代でもニーズがあって、その選択肢を用意したいと説明していました。従来は、ヘッドハンターに直接依頼しなければ得られなかった情報を、オープンにしていくという、明快で合理的な計画でした。

 結果的にうちとしても、ぜひ一緒にやりたいと提案したんですけれど、南さんは慎重で「もう少ししっかりプランを練ってから」と言われたんですよ。その後、少し待ってから、投資をさせていただいたという経緯があります。

 当時の投資のリリースを受けて出た記事が「異例の大型投資、2億円」みたいな書かれ方だったんです。2億円って、今ならニュースにもならない金額です。20億円でもニュースになるかなぐらいの感じですよね。ただ、当時は本当に画期的な金額だった。これも今のユニコーンという言わるスタートアップの資金調達のモデルのような存在となったのは間違いないと思います。
(2021年8月8日公開予定の記事に続く)