習近平氏Photo:123RF

強硬姿勢と経済鈍化で高まる政治リスク

 ここまで、中国経済のリスクとして、経済の構造問題を指摘してきた。だが、短期的に最も注意すべきは、経済的な要因ではない危機、すなわち国内政治における権力闘争や国際政治を舞台にした米中対立である。

 前回まで見てきた構造問題の多くは、改革を怠り問題を放置すると成長力の低下を招く。もっとも、経済への影響は時間をかけて緩やかに表れるため、問題が深刻化する前に対応する時間的な余裕がある。一方、国内の権力闘争や国際政治における米中対立の問題は、当事者である政治家や国同士の思惑が衝突することで生じるもので、事前の予想や対応が難しく、問題が表面化したときの経済への影響も大きくなる懸念がある。

 政治が中国経済に多大な影響を与えた例として、1989年6月4日に起きた天安門事件が挙げられる。事件の背景には、経済面で市場経済を導入しつつも、政治面では共産党一党支配を維持しようとした鄧小平らを中心とする「保守派」グループと、経済だけでなく政治面でも自由化・民主化を進めようとした「改革派」グループとの間での権力闘争があった。改革派の中心メンバーで、すでに失脚していた胡耀邦前総書記(当時)の死去をきっかけに、政治の民主化を求める学生らが天安門広場に集結、デモを行った。これに対し、保守派は人民解放軍を動員、武力を用いて鎮圧した。これを受けて、主要先進国が対中経済制裁を発動したことにより、70年代末の改革開放以降、10%超の高成長を続けていた中国の成長率は、89、90年に4%程度まで大幅に低下し、経済は停滞を余儀なくされた(次ページ図表)。