グーグルが「クラウド・コンピューティング」を志向するのは、同社のこれまでのビジネスモデルを考えれば、当然の方向である(もともとこの概念は、グーグルのCEOであるエリック・シュミットが2年前に提唱したものだ)。

 注目されるのは、この方向を志向しているのがグーグルだけではないということだ。

 IBMは、2007年11月、クラウド・コンピューティング製品系列「Blue Cloud」を発表した。これは、各地に分散している情報リソースをネットワーク経由で集中管理し、全体としてさまざまなサービスを提供するためのものだ。グーグルが主として個人や小企業を相手にしているのに対して、IBMは大企業を念頭においている。こうして、個人向けに広まってきた「クラウド・コンピューティング」が、企業システムにも広がろうとしている。

 さらに、マイクロソフトも「クラウド・コンピューティング」に取り組んでいることを認めている。10月1日にロンドンで開催されたイベントにおいて、同社バージョンのクラウドである「Windows Cloud」の存在が公表された(名称は「Windows Strata」 になるのではないかと言われている)。

 これは、IBMの動向にもまして注目に値することだ。なぜなら、マイクロソフトは、サーバーやパソコン(PC)にインストールして動かすOSやアプリケーション・ソフトの提供をこれまで主たるビジネスとしてきたからだ。クラウドへの移行は、同社のビジネスの基盤を揺るがしかねない。それでも、その方向を志向せざるをえないのだ。

 こうした動きをみていると、マイクロソフトがインターネット対応の遅れを取り戻すために、ネットスケープに対して強引ともいえる戦いを仕掛けた90年代後半の「ブラウザ戦争」を思い出す(*1)。そのときと同じような大変化が、いま起ころうとしているわけだ。web2.0というのは、「ウェブ利用法の改善」といった側面が強かったが、「クラウド・コンピューティング」は、もっと本質的で、もっと影響が大きい変化だと考えることができる。

*1: 野口悠紀雄『ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル』(新潮社、2005年)第Ⅲ部第2章を参照。

「シンクライアント」と
低価格コンピュータ

 クラウド・コンピューティングが一般化すれば、これまでPCにインストールして使っていた機能のほとんどは、ネットから供給されることになる。われわれが日常的に使うソフトは、それほど多くはない。メールとワープロ(またはテキストエディタ)、そして表計算ソフトがあれば、たいていの仕事はこなせる。そして、これらはすでにGoogle Appsで提供されている。

 したがって、個々の利用者から見ると、手元に置くコンピュータは、簡単なものですむことになる。極端に言えば、入力のためのキーボードやマウスと出力のためのディスプレイ、それにブラウザ機能だけがあればよい。手元のPCに計算能力はなくてもよいのだ。

 それにもかかわらず、現在のPCは、かつてのスーパーコンピューターを上回るほどの能力を持つCPUを搭載している。こうしたものが本当に必要なのかどうかは、大いに疑問だ。ウィンドウズのXPもⅤistaも、不必要な機能をたくさん抱え込んでいるために、重く遅くなっているとの批判がある。しかも、利用者は、そのためにコストを支払っている。

 多くの利用者の希望は、おせっかいな機能をできるだけ減らし、その代わり軽く快適に動くPCだろう。実際、最近のパソコン雑誌の特集記事の多くが、「余計な機能を削ぎ落とすためにどうしたらよいか」を指南している。