『週刊ダイヤモンド』8月28日号の第1特集は「安すぎ日本 沈む給料、買われる企業」です。ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代はもはや遠い昔のこと。賃金も資産も日本ではすっかり安くなってしまいました。安さに逃げ出す人もあれば、「お買い得」と群がる人もいる。安い日本で起こっているさまざまな現象を伝えるとともに、この国で生きる上でのキャリアと資産の戦略をレポートしました。

えっ、そんなに安いの?
日本はもはや賃金「最安国」

 「えっ、そんなに安いのか?」。首都圏に住むメーカー勤務の石原卓明さん(仮名)は驚いた。東北地方の国立大学にこの春進学した娘から、アルバイトの時給を聞いた時のことだ。

 娘は全国チェーンのコンビニエンスストアでバイトしており、時給は日中であれば840円だという。「その金額じゃあ、お父さんが学生時代にしていたバイトの時給と、ほとんど変わらない。もう30年近く経っているのに、どうして?」。思わずこう言って娘に詰め寄ってしまった石原さんだった。

 石原さんの娘がもらっている時給は、決して法外に安いというわけではない。

 東北地方の最低賃金は宮城県825円、福島県800円などで、6県平均で799.3円だ(2021年8月時点)。840円という金額は東北全県の最低賃金をクリアした、合法的な時給である。

 そうなると浮上するのは、「最低賃金そのものが低いのではないか」という疑いだ。その通り。日本の最低賃金が安いのだ。

 日本の最低賃金はG7(先進7カ国)では実質的に、最下位の状況である。

日本の仕事は安すぎる」
中国の下請けが逃げている

 OECD(経済協力開発機構)の2020年のデータを基にすると、G7のうち日本の実質最低賃金は8.2ドル(時給)で上から5番目だ。なんだ、日本以下の国がまだ2つもあるじゃないか、などと安堵してはいけない。

 まずイタリアは、法定の最低賃金制度そのものが存在しない。最低賃金の比較そのものから、イタリアは除外せざるを得ない。

 次にデータ上では7.3ドルで、日本より1割強低い米国については、取り扱い要注意だ。OECDの統計に使われている米国の最低賃金は連邦政府が定めた金額で、実際の雇用市場では6割の州がこれよりも高額の最低賃金を定めている。例えば人口最多のカリフォルニア州は、14ドル(約1530円)が最低賃金だ。

 だからG7中、本当の「最低賃金ビリッケツ」は米国ではなく、日本であると考えるのが適切なのだ。これでは「世界第3位の経済大国」が名折れするというものである。

 このように先進国にあるまじき「低賃金」の日本では、さまざまな珍事が起こっている。たとえばソフトウエア開発の業界では、発注金額の低さにうんざりして、中国の下請け企業が日本の仕事を敬遠する動きが広がっている。

 ソフト開発の金額はつまるところ、人件費の積み上げだ。賃金が上がらなかった結果、日本の開発案件の発注額も横ばいが続いている。一方で中国の人件費は近年、上昇が続いている。このため、中国の下請けから見て日本の開発案件が安すぎるという事態に陥っているのだ。

安い日本に巻き添えにならず
生き抜くための新常識

 『週刊ダイヤモンド』8月28日号の第1特集は「安すぎ日本 沈む給料、買われる企業」です。安くなった日本のリアルと、そこで生き抜くための戦略の提案を、4つのパートで総力レポートしました。

 PART1は「安すぎ日本の現実編」として、20年以上に渡り「昇給ほぼゼロ」が続いている日本の実態を浮き彫りにしました。今日本で何が起こっているのか、現実を知る上で必読です。

 PART2は「給料とキャリアの戦略編」です。自動車やハイテクなど6つの業界の給料の動向をグローバル視点で分析し、「世界標準の給料がもらえる業界はどこなのか」を追いました。

 PART3は「資産防衛の知識編」で、停滞する日本において大事な資産を「海外脱出」させるためのさまざまな選択肢を提案しています。

 PART4は「買われる企業のデータ編」。海外から「これはお買い得」と買われている企業がどれぐらいあるのか、200社の実際の社名とともに伝えています。

 自身の資産防衛や子供のキャリア選択のためには、日本がどれだけ安い国かは絶対に知っておくべき新常識です。