階級社会#10Photo by Fusako Asashima

労働法の番人として恐れられている労働基準監督署。その実働部隊である労働基準監督官は、司法警察官として逮捕権を有するなど、極めて強い権限を持っている。だが、長時間労働が減少傾向にあるためか、最近の労基署は鳴りを潜めているようにも見える。特集『新・階級社会 上級国民と中流貧民』の#13では、実は虎視眈々とブラック企業に狙いを定める労基署の実態に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

日本人の労働時間が減っても
過重労働は減っていない

「本来、過重労働撲滅特別対策班(通称・かとく)は、発展的に解消されるのが望ましい。でも、まだ全国で向き合わなければならない問題が多数、発生している現実がある」

 そう大阪労働局の井手奈津美・主任監察監督官は言い切る。

 かとくとは、2015年に創設された労働局の精鋭部隊のこと。大企業をターゲットに悪質な長時間労働を取り締まる専任組織だ。厚生労働省に司令塔があり(本省かとく)、実働部隊として、東京労働局(東京かとく)と大阪労働局(大阪かとく)にエース級の労働基準監督官を配置している。井手氏もそのメンバーの一人だ。

 厚労省「毎年勤労統計調査」によれば、日本企業の長時間労働は減少傾向にある。2020年の日本人の年間労働時間(総実労働時間)は1621時間と10年前に比べて133時間も減少している。

 では、企業が率先して労働時間を抑制しているのかといえば、そうでもないらしい。

 実はこの統計には、カラクリがある。全労働者に占めるパートタイム労働者の構成比が、10年の27.8%から20年の31.1%へと急速に高まっているのだ。パート労働者の労働時間は比較的、短い。そのため、全労働者の平均労働時間を引き下げたとみられているのだ。

 実際に、一般労働者(パートタイム労働者以外の労働者)の平均労働時間は2000時間程度で高止まりしている。井手氏が強調しているように、決して職場から過重労働が消えたわけではないのだ。

 19年4月から順次施行された働き方改革関連法の中でも、時間外労働の上限規制導入など、長時間労働の是正はメインテーマである。なにしろ、罰則規定が盛り込まれたのは、1947年の労働基準法が制定されて以来のことだ。

 このように法的抑止力も働いていることから、企業が、長時間労働を撲滅することは必要不可欠となった。

 だが目下のところ、社員の労働時間を管理するという“最低限のルール”を守ることに企業の経営者や人事部は頭を悩ませているという。なぜなのか。