職場や家庭、SNSなどで、その場の感情に任せて相手に怒りをぶつけてしまい、後悔したことはありませんか。発端はささいなことだったのに、ぶつけてしまった怒りが人間関係を傷つけ、その後、取り返しのつかない大事に発展することも少なくありません。
そんな失敗をしないために必要な、怒りをうまくコントロールして日々を平和に穏やかに過ごすコツを教えてくれるのは、精神科医の伊藤拓先生です。
20年以上にわたり、のべ5万人を診てきた先生の著書『精神科医が教える 後悔しない怒り方』から再構成して紹介します。(初出:2021年9月7日)

【精神科医が教える】やめるだけで驚くほど「怒らない人」に変わる口ぐせ【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock
伊藤拓(いとう・たく)
精神科医
昭和39年、東京都西東京市出身。東京大学理科Ⅱ類(薬学部)卒業後に医師を目指し、横浜市立大学医学部医学科に再入学。卒業後に内科研修を1年履修した後、精神科に興味を抱き、東京都立松沢病院で2年間研修する。平成5年に医師免許、平成10年に精神保健指定免許を取得。現在、大内病院精神神経科医師。
精神科医としてこれまでの27年間でのべ5万人以上を診ている。統合失調症、気分障害(躁うつ)、軽症うつ病の分野で高い評価を得ている。

こんな「口ぐせ」に要注意!

自分の日頃の行動や習慣を変えて怒らないように仕向けていく方法はいくつかあります。ここでは、誰にでもすぐに気軽に実践できそうなスキルの1つとして、「口ぐせ」について紹介していくことにしましょう。

口ぐせには、日頃の考え方のクセが現れます。自分の思考パターンが「無意識に口をついて出る言葉」に投影されるのです。

そのため、日頃からネガティブな言葉を口ぐせにしている人は、考え方や行動もネガティブな方向へ引っ張られがちになります。たとえば、次の「6D3S」で始まる否定的な言葉には注意が必要です。

6D……「どうせ」「でも」「だって」「ダメだ」「どうしよう」「〇〇できない」
3S……「しょせん」「〇〇すべきだ」「〇〇しなければならない」

いかがでしょう。ついついこれらの言葉を口にしてはいませんか?

「どうせ」「でも」「しょせん」などの次には、たいてい否定的な言葉がつながります。

普段から口ぐせにしていると、考え方や行動が卑屈でネガティブなものになりやすく、そうした否定的態度が人間関係に影響をもたらすようになっていくことも少なくありません。

また、先述したように、「〇〇すべきだ」「〇〇しなければならない」という思考に陥りやすく、これらを口ぐせにしていると、他人に対して不寛容になり、不満や怒りを感じやすくなっていきます。

逆に、こうした口ぐせを意識して使わないようにすれば、それだけでも気持ちが変わってくるはずです。

そして、代わりに「きっとできる!」「いける!」「よっしゃあ!」「大丈夫!」「何とかなる」といった前向きな言葉を意識的に口にするようにしてみてはいかがでしょう。

そうすれば、考え方や行動も前向きでおおらかな方向へと変わっていきます。人間関係もスムーズに運ぶようになり、いままでは怒っていたようなことに対しても怒らずに済むようになっていくのではないでしょうか。

ちなみに、私たちは通常、肯定的な思考と否定的な思考の両方を持ち合わせています。しかし、心理的な苦痛を感じると、まずは否定的な思考のほうが優勢となってしまいます。すると、思考に柔軟性がなくなり、ひずんだ考えに傾いてしまいがちです。

つまり、心に何らかのストレスが加わると、ネガティブな思考にとらわれてしまい、そのせいで脳は受け取った情報を正常に処理できなくなるのです。よって、普段ならどうでもいいようなことに過剰に反応してイライラしたり、何事も悪いほうにばかり解釈して怒りが湧いてきたりしてしまうことがあるわけです。

このネガティブな思考は、「無力感」と「愛されていないという感じ」の2種類に大別されるとした研究があります。

なお、心理的な苦痛が軽減されると、今度は肯定的な思考が優勢となるとされていますので、「自分には何もできない」「どうせ私なんて……」といった無力感を抱いたり、「私は誰にも愛されていない気がする」などという感情が湧いてきたりしたら、その感情が怒りに発展する前に、まずは現状で受けているストレスをあなたに合った方法で発散することを心がけてみてください。