管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求めらる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

仕事はできるけど、部下がついてこない「管理職」が見落としていること写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

管理職が「腹落ち」するまで
考えておくべきこととは?

 何のために働いているか?

 普段、それをあまり意識せずに仕事をしている人も多いかもしれませんが、少なくとも管理職になったときには、必ず、自分なりに「腹落ち」するまで考えておく必要があると、私は思います。なぜなら、それが自分のなかで明確になっていなければ、管理職としての言動に一貫性のある「軸」のようなものが生まれず、結局のところ、メンバーからの「信頼」を失う結果を招くからです。

 逆に、「何のために働いているか?」をしっかりと把握して、その目的のために日々、実直に仕事に向き合っている人間に対して、周囲の人は「信頼」と「共感」を覚え、「力を貸してあげよう」と思ってくれるものです。それこそが、管理職がメンバーを動かしていく原動力となってくれるのです。

 そのことを、初めて実感したのは社会人になってすぐのことです。

 その頃、私は毎日毎日、「飛び込み営業」で法人に携帯電話を紹介して回ったのですが、なかなかうまくいきませんでした。勇気を出して飛び込んでも、まともに対応もされずに追い返されるのが大半で、たまに話を聞いてくださる方がいても契約までもっていくことはほとんどできませんでした。厳しいノルマが課せられていましたから、それは非常につらい経験でした。

「なんとかしなければ……」と思って、一生懸命にセールストークを練習して、多少は上手にはなりましたが、それでもさほど売れるようにはなりませんでした。「いったいどうすれば、買っていただけるんだろう……?」と悩むばかりでしたが、そんなある日のこと、思いがけない「出会い」がありました。何度断られても性懲りも無くやってくる私に興味をもった社長さんが、直々に私の話を聞いてくださったのです。

仕事はできるけど、部下がついてこない「管理職」が見落としていること前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務める。