管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求めらる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

“優れたマネージャー”が毎日欠かさない「5分習慣」とは?写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

管理職が胸に刻むべき「言葉」とは?

「一期一会」という言葉があります。

 一般によく知られている言葉ですが、それだけに誤って使われることも多いように感じます。

 例えば、「あの人との出会いは、まさに一期一会だった」などと、「一生で一度の奇跡のような出会い」といった意味で使われることがあります。たしかに、「一期」とは「一生」、「一会」とは「一度限りの出会い」という意味ですから、なんとなく正しいように感じるのですが、これは完全な誤用。本来は、むしろ「逆」の意味が込められた言葉なのです。

 もともと、「一期一会」は茶道に由来する言葉で、千利休が遺した言葉だと言われています。

 そして、「茶会に臨むときには、これまでに何度も招いたことのある客であっても、その機会は二度と繰り返されることのない、一生に一度の出会いであることを心得て、主人・客ともに誠意を尽くす」という心構えを説く言葉なのです。

 つまり、「一生に一度の奇跡のような出会い」をありがたがる言葉ではなく、毎日顔を合わせるような相手であったとしても、「一回一回の出会いを大切にしなさい」と諭す言葉なのです。茶道に限らず、すべての人が胸に刻むべき言葉ではないかと、私は考えています。

 特に、管理職にとって重要なことを示唆しているように思います。

 なぜなら、メンバー一人ひとりと「信頼関係」を築くためには、彼らとのコミュニケーションの一つひとつを大切にすることが不可欠だからです。その積み重ねによってしか、「信頼関係」を築くことなどできないのです。

 ところが、管理職は多忙なうえに、次から次へとメンバーから相談などをもちかけられますから、気持ちの余裕を失いがちで、ついついぞんざいな対応をしてしまうものです。

 しかし、管理職は決して悪意があってそうしているわけではなくても、メンバーは「軽んじられている」「大切にされていない」と感じて、管理職に対する信頼感を傷つけてしまいます。だからこそ、私は、管理職は「一期一会」という言葉を胸に刻まなければならないと考えているのです。

“優れたマネージャー”が毎日欠かさない「5分習慣」とは?前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務める。