自民党本部Photo:PIXTA

菅義偉首相の自民党総裁選不出馬表明を受けて、市場は円安・株高となった。来る衆議院議員選挙で自民党大敗のリスク低下を好感したと思われる。現在、立候補を表明、または検討している候補者の経済政策について予測、分析してみた。(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英)

菅首相の辞意表明で円安・株高
自民党総裁選は混戦模様に

 菅義偉首相は9月3日に、今月29日に投開票の自民党総裁選に出馬しない方針を突然表明した。安倍前首相の辞任を受けて昨年9月に発足した菅内閣は、1年あまりの短期政権で終わる。

 コロナ対策に対する国民の不満を背景に菅内閣への支持率低下に歯止めがかからないなか、党内では菅首相の下で衆院選を戦うのは厳しいとの声が高まっていた。こうした情勢下、各派閥の支持を取り付けて自民党総裁選で勝利するのは難しい、と菅首相は判断したとみられる。

 菅首相の辞意表明を受けて、金融市場では円安、株高が進んだ。リスクを取る動きが強まった。新政権の下でより有効なコロナ対策が取られるとの期待が背景にあるだろう。

 さらに、国民の支持率が低い首相が代わることで、来る衆議院選挙で自民党が大敗するリスクが下がり、それが政治・経済の安定にプラスになる、との観測もあるのではないか。

 菅首相が当初打ち出していた既得権益の打破などの改革は進まず、コロナ対策に翻弄された1年となってしまった。ただし、2050年にカーボンニュートラル(実質的な二酸化炭素排出量ゼロ)を達成する目標など地球温暖化対策を積極化させたことは、菅政権のレガシー(遺産)として残るだろう。

 自民党総裁選は、菅首相の辞意表明によって情勢が一変し、混戦模様となってきた。当初は菅首相と岸田文雄前政調会長(岸田派)の一騎打ちの構図であったが、菅首相の不出馬表明を受けて、総裁選に出馬を検討する向きが増えている。

 現時点で正式に出馬を表明しているのは岸田前政調会長のみだが、高市早苗前総務相(無派閥)も以前から出馬の意向を強く示している。また、河野行革担当相(麻生派)も、新たに出馬する意向と報じられている。野田聖子幹事長代行(無派閥)も出馬の意欲を見せている。さらに、出馬に慎重であった石破茂氏(石破グループ)が方針を変えて出馬する可能性もある。