スーツ 消滅と混沌#6Photo:JGalione/gettyimages

かつてスーツといえばウール素材が基本だった。しかし、ポリエステル中心の機能性スーツの隆盛に伴い、ユニクロやワークマンなどの低価格アパレルが、高機能・高価格な東レや帝人フロンティアの生地を取り入れて差別化を始めた。特集『スーツ 消滅と混沌』(全8回)の#6では、脇役だったスーツ市場で急成長する繊維メーカーの舞台裏を追った。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)

帝人の素材が相場の半値に!?
ワークマンのスーツに業界騒然

「『なぜあんな価格でSOLOTEX(ソロテックス)を売ったんだ』と業界で悲鳴が上がりましたよ」

 あるスーツ専門店の幹部は、ワークマンのリバーシブルワークスーツ発売の“衝撃”をこう語る。

 今年8月、ワークマンはリバーシブルワークスーツを4800円(上下セット、税込み)で販売した。この激安スーツに使われた素材は、帝人フロンティア(以下、帝人)の看板商品「SOLOTEX」である。

 SOLOTEXはポリエステル繊維の中でも伸縮性に優れ、さまざまな繊維と合わせやすいことが特徴だ。SOLOTEXを糸や布に加工する段階で見た目を変えることもできるため、最近の機能性スーツでは引っ張りだこの素材である。

 ただし、その分価格も割高だ。機能性スーツの場合、最終製品の相場は最安値でも1万円前後といわれていた。それが4800円で売られてしまったのだから、他社にとってはたまったものではない。

「スーツを作るならば、夏は東レのDotAir(ドットエアー)、冬は帝人のSOLOTEX。この二つの素材を使いたかった」

 こう語るのはワークマン製品開発部第1部長CDOの中野登仁氏だ。

 ワークマンも初めはDotAirやSOLOTEXは使えなかった。布によっては通常の生地の数倍になることもあるほど、値段が高いからだ。

「スーツ作りのノウハウや経験がない中で、良い商品だという説得力を持たせるためには、生地の良さが重要になる。『あの素材を使っているならば良い商品だ』と思ってもらえる素材を使いたかった」(中野氏)

 そこでワークマンは、狙いの素材を射止めるための布石を打った。