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旧態依然とした製薬業界が何か新しい取り組みを始めようとした時、製薬業界を顧客としたい異業種にとっては大きなビジネスチャンスになりえる。本連載では、製薬業界の現状や成長の可能性および課題をつぶさに見ていく。異業種にとってビジネスチャンスの獲得、ひいては異業種の業績伸長にも役立ててほしい。(医療コンサルタント 武知志英)

仮説を文章で登録しておくと
AIが優先順位をつけて情報提示

 近年、医療用医薬品の研究者が、新たな物質の探索に用いるのに定着したサービスがある。「毎日公開される医学雑誌や世界中の論文データベースに登録される論文を検索し、製薬企業の研究者が必要としている論文だけをピックアップして、研究者の興味や関心に応じて優先順位をつけて研究者に届ける」サービスだ。

 このサービスの肝は、研究者が立てた仮説を文章で登録しておくと、サービス側のAIが研究者の仮説に関連する論文、疾患、遺伝子、データなどの関連情報を、優先順位をつけて提示するところにある。

 従来用いられていたPubMed(米国の無料検索エンジン)などの論文検索サービスは、キーワードを登録しておけば、そのキーワードに合致する論文をユーザーに知らせてくれていた。だが、医学論文は毎日数千本以上が新たに公開される世界だ。ある論文がどれくらい研究者の仮説に関わる論文なのかは、実際に読んでみなければ分からなかった。

 それをAIが代行してくれることで、研究者はAIが優先順位をつけて選んでくれた論文リストから必要と思われる論文を読めば良くなった。これで研究者は、自分の研究時間を一層有効に使えるようになった。ここにビジネスのニーズがあったのだ。

 とはいえ、このAIによる論文検索のサービスもまだ、論文の抽出や優先順位付けの精度に問題があるという話を研究者から聞く。このサービスでは東京のFRONTEO社がビジネスをリードしているようだが、論文の抽出に新たなアルゴリズムを作り出せたり、論文の機械学習の精度を従来以上に高められたりできれば、製薬企業との新たな取引を始めることは可能だろう。

 このように製薬業界には、異業種の目の付けどころによっては、また、異業種が提供するサービスの内容によっては、ビジネスチャンスとなる可能性がたくさんある。