トルコ国旗Photo:PIXTA

トルコ経済が堅調に推移している。新型コロナウイルスの感染は収束していないが、ワクチンの完全接種率は4割を超えた。政府や中央銀行の政策総動員やマイナスに転じた実質金利が景気浮揚をもたらす。景気の強さゆえに、目標を大きく上回っているインフレ率がさらに加速する懸念がある。(第一生命経済研究所経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)

世界平均を大きく上回る
ワクチン接種率

 ここ数年、トルコでは、インフレ率が中央銀行の定めるインフレ目標を大きく上回る水準で推移している。にもかかわらず、中銀は「高金利が高インフレを招く」という『トンデモ理論』を唱えるエルドアン大統領の圧力にさらされ、独立性が懸念される展開が続いた。

 加えて、欧米諸国などとの外交関係の不透明感なども理由に資金流出圧力が強まり、リラ安の進展が輸入物価を押し上げてインフレ圧力を増幅させる状況が続いてきた。

 トルコは、2018年に資金流出圧力が急激に強まりリラ安が急進した「トルコ・ショック」に見舞われ、その後、インフレ率が大幅に上昇した。翌19年にはその反動で鈍化したものの、昨年以降は再びインフレ率の上昇が加速している。

 この背景には、同国においても昨年以降新型コロナウイルスの感染が拡大したことを受けて、政府及び中銀が財政、金融政策の総動員を通じて景気の下支えを図っていることもある。

 なお、年明け以降も感染力の強い変異株により感染が再拡大する「第3波」の動きがみられたため、政府は人の移動が活発化する夏季休暇に向けて、行動制限を再強化することをはじめとする感染対策を講じた。そして、欧米や中国など主要国でワクチン接種の広がりが経済活動の再開を後押ししていることを受けて、ワクチン接種の加速に取り組んだ。

 世界的にワクチン獲得合戦の様相が強まるなか、トルコは中国によるいわゆる「ワクチン外交」を追い風に中国製ワクチンの供給を受けるとともに、ワクチン接種のすそ野拡大を通じて早期に集団免疫の獲得を図る戦略を採ってきた。

 こうしたこともあり、今月14日における完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は48.18%に達している上、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)は61.40%とともに世界平均(それぞれ42.33%、30.30%)を大きく上回っている。ワクチン接種は大きく進展している。