農協の大悪党#8中川泰宏が会長を務めるJA京都。プロの農業者とはいえない地域住民を議決権のある正組合員とする「農家数の水増し」を行っている Photo by Hirobumi Senbongi

中川泰宏が26年以上にわたってトップを務めてきたJA京都は、農業者ではない地域住民を農協の経営に関与する正組合員にしてしまう「農家数の水増し」を行っている。この行為は農協の存在意義を自ら否定する重大な問題であり、農協が農業者による協同組合ではなくなっている実態をも浮き彫りにした。連載『農協の大悪党 野中広務を倒した男』の#8では、中川が開けたパンドラの箱の中身を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

統計上あり得ない1.8万人もの「農業者」が
JA京都の正組合員になった不思議

 JA京都は2018年10月、正組合員になる要件としていた「耕作面積10アール以上」や「農業従事日数50日以上」を撤廃し、組合員増員運動を展開した。耕作面積と農業従事日数の両方の要件を撤廃するのは全国の農協で初だった。

 その後、JA京都は1年余りで一般企業の株主総会に当たる総代会の議決権を持つ正組合員を1.8万人も増やした。農業協同組合法では、農協の正組合員は「農業者」と規定している。一つの農協で1.8万人もの農業者が出資金を払って新たに正組合員になることなどあり得ない。

 筆者はこれを「農家数の水増し」であるとして検証記事『進次郎肝いり農協改革に反旗、JA京都「農家数水増し」の呆れた実態』を19年12月9日に公表した。するとJAグループ京都は同月18日に、当該記事の一文ごとに物言いを付けるという“斬新な手法”で反論を行ってきた(反論文は本稿執筆時の21年10月4日現在もJAグループ京都ホームページに掲載されている)。

 対象となった記事は「農業振興に力を入れる農協改革に水を差すだけでなく、JA(農業協同組合)の存在意義を否定する“暴挙”だ」という、中川に批判的な農協関係者のコメントで始まる。

 これがよほど腹に据えかねたのか、反論文は正組合員の要件撤廃について「時代に合わせた定款変更の取り組みを行ったところであり、JAの存在意義を否定するものではない。むしろ(これを批判する記事は)、JAの存在意義を理解していない記者の“暴挙”である」と抗弁していた。

 しかし、筆者はいまでもJA京都の「農家数の水増し」は農協の存在意義の否定に他ならないと考えている。中川が主張するように農協を時代の変化に対応させようとするならば、正組合員の要件をなし崩し的に緩和するという小手先の対応ではなく、農協組織の在り方を抜本的に見直す必要がある。

 今回は、JAグループ京都側の主張に統計的な裏付けをもって反証するとともに、農協がすでに農業者による協同組合ではなくなっている実態を暴くことにする。