死後の手続き お金の準備#10Photo:kazoka30/gettyimages

パートナーが認知症になってしまったら相続財産はどうなるのか?認知症になってしまうと相続のお得な制度がまず利用できなくなり、遺言書作成もNGになる「デッドロック」状態に。そうならないために重要なのは認知症になる前の準備だ。特集『死後の手続き お金の準備』(全16回)の#10では、認知症で「相続貧乏」にならないために、何をどう準備するか、防衛術をお伝えする。(ダイヤモンド編集部 羽富宏文)

遺言書や預貯金の引き下ろし…
認知症診断で何もできない“デッドロック”に

 トイレのドアを何度も開け閉めして出入りを繰り返す夫(89歳)。神奈川県内に住む服部恵子さん(82歳・仮名)は夫の認知症の進行に焦りを感じていた。

「症状は日に日に進行しているようです。もっと早く準備をしておけばよかったと本当に悔やんでいます」

 夫に異変が生じたのは1年前だ。自宅で転んで骨折したため3カ月ほど入院。退院して家に戻ると、言動に異変が生じ始めていた。

 このままでは面倒を見るのも大変な夫には施設に入ってもらい、自分は息子の家に移ろうかと服部さんは考えている。そこで問題となるのは家だ。このままでは空き家となってしまうため、処分すべきかどうか頭を悩ませている。

 パートナーが認知症になってしまったら、生活面では介護が始まる。一方で、考えなくてはいけないのが相続だ。

 認知症などが原因で、判断能力を欠く相続人が遺産分割協議に参加したとしても、その協議は無効とされてしまうので成年後見人を付けなければならなくなってしまう。

 遺言も遺せない。多くの医療機関で用いられている認知機能テストによって「認知症の症状がある」と判断されると、書いたものでも遺言書と認められない。

 預貯金についても、現在は本人確認がうるさいので本人でないと預貯金を下ろすこともできなくなってしまう。いったん認知症と診断されると本当に何もできない“デッドロック状態”になってしまい、「相続貧乏」のリスクが高まるのだ。